ぼくたちの、かあちゃん

□ぼくたちの、かあちゃん (16)
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「留三郎はね、また彼女に振られたーって落ち込んでたよ」

「ふーん、アイツほんとに長続きしないなー」

「伊作も薬剤師?だっけ、忙しいみたいで最近は会ってないや。」

「へー、アイツもなかなか大変だなー」



留三郎と伊作はどうしているんだ、と自分から聞いてきたのに…
他人のこととなるとあんまり興味のなさそうにしている小平太。
私の話なんて右から左へ聞き流して、ブルーハワイ味のかき氷をかきこむことに夢中になっている。



「文次郎はげんき?」

「知らん!きっと仕事詰めだろーな!」

「………小平太はなにか変ったことあった?」

「だから連絡してただろう!最近はなあ!海のほうは荒れてて大変だったんだぞ!でも見ろこの収穫量を!」

「あ、そう。すごいね…」



あんな態度だったのに、自分のこととなるといきなり目を輝かせて話し始めた。
ホラ!と出してきた携帯の写真にはカゴにあふれんばかりの魚介類。
ああ、何日か前に私の携帯に送られてきたやつだ…。
なんてうわの空で思っていると、小平太の持っていた携帯からカシャっと音が聞こえた。
音のするほうを見ると、携帯を構えた小平太がヤンチャな顔をして笑ってる。



「………ねえ、私の写真とったでしょ。」

「へへ、かき氷を食べる食いしん坊名前だ!」

「ああ!小平太!僕たちもとって!とって!」

「やった!俺も俺も!ピース!」



任せとけー!と左門と三之助の写真を撮ってあげている小平太。
前まで携帯なんて電話でしか使わない!なんて言ってたくせに
伊作から写真を撮ることを教わってからの小平太ときたら…。



「うわっ、左門!こぼしてる!」

「え!どこだ?ふいてかあちゃん!」

「動かないで!ふいてふいて」



写真に夢中の左門が、ちょっと渋めなチョイスの抹茶金時のかき氷を
べちょっと自分の服にこぼしてしまっているのが目に入って慌てておしぼりで拭いてあげる。
自分でこの服はお気に入りなんだ!って自慢してたのに、もう染みがついちゃうでしょーがー。



「あー!三之助もその手で髪の毛さわらないの」

「だってかあちゃん、頭キーンてしてきたんだもん!」

「手べたべたじゃない、もー」



甘党な三之助が選んだのは、ミルク練乳だったから
悲しいことに、練乳が髪の毛についてベタベタになっている。
もー、手で落ちたかき氷を掴むからそうなるんだよと小さい手を拭いてあげる。



「へー、ちゃんと母ちゃんしてるんだな。」

「そりゃ、もう慣れたよ。」



小平太が頬杖をついて私たちの様子を不思議そうに眺めていた。
初めはなんで男の子ってこんなにヤンチャなんだろうって毎日へとへとになっていたけれど
最近はやっぱり少しだけお兄ちゃんになったのか、聞き分けがいいときもあるし
私がそんな元気な2人に慣れたのか、だいたいの行動が読めるようになった。



「やだ!小平太もこぼしてる!」

「え…?どこにだ?」

「こーこー!」



小平太もぼーっとしてたからか、かき氷がスプーンから零れて下に落ちていた。
タンクトップにシミできちゃうでしょうがー、小平太ってばもう何歳になるのよ。
なんて思いながらおしぼりで拭いてあげると、小平太は何故だかとっても嬉しそうな顔をして私を見ていた。
…見てないで、自分で拭きなさいよ。



「へへ」

「小平太……なに笑ってるの」

「…名前が帰ってきて、私は嬉しい」



ニッと八重歯を覗かせて、昔と変わらないくしゃくしゃの笑顔で私を見る小平太。
嬉しそうな顔をしてそんなこと言うなんて…、卑怯者。



「はいはい、ありがと」

「お!名前が照れてるぞー!」

「照れてないー!」



そう言って、昔から大好きなイチゴ練乳を頬張る私。



「かあちゃん、一口!」

「かあちゃん俺も!」

「母ちゃん!俺もにもくれ!!」



あーっと口を開ける三人を見て笑ってしまった
小平太が本当に大きな子供みたいで、笑っちゃう。

いちご練乳、みんなで食べたな。

どこもかしこもベタベタにして怒られたな、ちっとも変わらないね。





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小平太のくしゃくしゃの笑顔を間近で見たいです
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