ぼくたちの、かあちゃん

□ぼくたちの、かあちゃん (21)
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「ねー。伊作。アイス見てきていい?」

「…名前。そうやってアイスばっかり食べてると身体によくないよ。アイスって言うのは糖質が多くて、特に女の子は身体が冷えるし…」

「はいはーい。わかってるってばー。」

「お酒選んでるからすぐ戻ってくるんだよー、名前!聞いてるー?」











「え?……あー、えーと…、はい。」



目的のコンビニに着いて直ぐ。
心配性な伊作を置いてアイスコーナーで真剣にアイスを選んでいた私は今、知らない男の人に声をかけられている。

これは、…俗に言う、ナンパってやつなんだけれども。

わあ、こんな田舎でもまだこういうことがあるんだ…と私は冷静に考えていた。
きっと相手は同い年くらいなんだろうけど、恥ずかし気もなく柄の悪そうな格好をしていて。
ついでに頭のほうも悪そうな話し方で、言っては悪いけどブルっと寒気がした。
苦笑いで会釈だけして、そのチンピラかぶれのことを無視しても何故か話が止まらない。
…アンタは知らないだろうけど私、頑張れば母乳でるんですけど。
遊びたいならもっと若い子に声掛けなさいよね、と不憫に思う。
このまま無視してれば何処かに行ってくれるかなと呑気に考えていた。



「あ、伊作…。」

「僕の連れなのでやめてもらっていいですか。」











「伊作、成長したんだね、びっくりした!もう泣かないんだ!強くなったね!お母さん嬉しいなあ!」

「もー!名前!お母さんだなんてからかわないでくれよ〜!怖そうなヤツが隣にいてびっくりしたんだから〜!」



会計を済ませて足早にコンビニから出た私達。
呑気にそういう私のほうを勢い良く振り返った伊作は、ちょっぴり涙を溜めながら怒って抗議していた。
格好良く私を自分の背に隠して、チンピラかぶれみたいな男から守るように勇ましく立ち向かってくれて。
まるで古臭いドラマや少女漫画みたいなセリフで追い払ってくれて。
伊作があんな強面に見つかって絡まれたら可哀想だと思って大人しくしていたのに、そんな必要なかったね。
伊作は、顔だって女ウケしそうな可愛い顔なのに、優しさだってピカイチなのに…。
…どうして出来ないんだろうね、彼女。



「ごめんごめん、だって伊作、男らしくなったなーって感心してたんだよ。」



小さい頃、大人しくて優しい伊作は、文次郎や仙蔵や留三郎に散々こき使われて。
私も女の子みたいな伊作を子分のように思ってて、ワガママ言い放題で困らせて。
何度傷ついてもムカついても言い返せもしないでぐすんぐすん泣いて、私たちの後をついてくるだけだったのに。



「あー!でも怖かった〜、ボコボコにされたらどうしようって…。」

「そんなあ、マンガじゃないんだから」

「名前は怖くなかったの?」

「ああいう時は、子供が居るんでって言えば大概は大丈夫かな。」

「相変わらず名前は強いなあ。」




その伊作の言葉に、立ち止まってはっとした。

違う、違うんだよ。

強いと思っていた、変な勘違いをしていた。

実際はそんなに強く無くて、強いフリだけしながら堂々と生きてきて。

いざとなったら自分一人ではどうしようも出来なくて。

あんなに泣き虫で弱虫でドジな伊作よりも、ずっとずっと弱くって。




「名前、重いから持つね。」




可愛い左門と三之助のために奮発して余計に買ってしまったアイスが詰まったビニール袋がフッと軽くなる。





「…ねえ、伊作…、伊作は、正義の味方だね。」


「名前。そうだね、」





振り返った伊作は、変わらないくらい優しい顔をしていた。



「僕はずっと名前の味方で居るからね。」

「…うん、」






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次から展開がすこし変わって行く予定です
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