誰よりも好きです、好きです

□ 誰よりも好きです、好きです
1ページ/1ページ




「……ねえねえ、ハチさあ」

「…んだよ。」



放課後。
もう誰も居なくなった教室で、雷蔵が俺の顔をまじまじと見ていた。
雷蔵の顔からなんとなく聞かれそうなことが分かって、嫌そうに顔をひきつらせてそっけなく返事をする。



「もしかして、名前ちゃんのこと、気になってるの…?」

「違う!!」

「え、違うの?」



なんだ、僕はてっきり…、と苦笑いする雷蔵。
やっぱりその質問だろうなとは思っていたけど…勝手に勘違いはするな雷蔵め。
今日の陸上部はミーティングだけで終わったので、三郎の生徒会の活動が終わるのを雷蔵と2人で待っていた。
ああ、早く生徒会終わらねえかな、三郎のヤツ…。



「だって、ハチってば、名前ちゃんとすごく話したがってたみたいだし。」

「だーかーらー、そうじゃなくて…。色々あるんだよ…、俺も。」



恋愛経験が少ない雷蔵にこの話をしても、よく分からないだろうし
きっと大変だね頑張って、くらいのアドバイスしか貰えないだろうから止めておこう…。
俺は、教室に響き渡るくらい大きくはあと溜め息をつく。
…たしかに、移動教室のときにチャンスだと思って、思い切って名前に話しかけて
あまりいい反応が得られなくても、めげずに隣の席に強引に座って
部活では何をしてるの、とせっかく答えやすい質問で話しかけたのに…
結局『お菓子とかつくってる。』という答えしか返ってこなかった…。
そして、空気も読めない雷蔵にそこ僕の席だから早くどいてと追いやられてしまってそのまま会話終了。



くそ…、ファーストコンタクトが撃沈ってマズすぎる…。
名前って、変わってるのかもな…。
話は続かないし…、あんまり笑わないし…。
浜のヤツ、名前にどんなイメージを抱いてるか知らないけれども
いざ話してみたら、冷めるかもしれないな…



「三郎まだ終わらないかな。僕ちょっと見てくるね。」

「おー…。」



雷蔵がいなくなって、俺だけになった教室。
くっそ、これから一体どうすればいいのだろう、と俺の悩みは浜のことばかり。
最初はなんとかなるだろうって思っていたけど、案外この恋は難易度が高いのかもしれない…。



「…あ、いた。」

「…へ?」



教室の後ろから、声がして、振り返る。
…あ。



「名前、」



教室の後ろから入ってきたのは、名前だった。
その姿に思わず息が詰まる。
だって、この教室には今俺しか居ないし…。
居たって…、え、もしかして、俺のこと…?え?



「ハチくん、はい、これ。」

「な、なに、これ…?」

「今日はね、部活あったんだ」

「あ、そう、なんだ…、ありがとう…?」



さっきまであんなにも、名前と浜のことを考えていたのに
いざ急に現れた名前に、まさか話しかけられると思っていなくて思考が追い付かずにいる俺。
名前はそんな俺の心うちなんか知らないからか
そっと近付いてきて、何か手渡してきた。
渡されたのは、キレイにラッピングされた可愛い小さな袋。



「え、これ、もしかして…食って、いいやつ…?」



料理部でつくってくれた?なんでそれを俺にくれるんだ?もしかして俺を探してくれていたの?
なんて、名前に面と向かって聞きたいことはたくさんあったけど、言葉に出たのはほんの一部で。
あとの質問は、一瞬の出来事だったからとうとう聞けなかった。
うん、とだけ言いながら両手に鞄を持って教室を出て行く名前は
俺の反応を見ながら、楽しそうにくすっと笑ってた。



あ、…笑った顔、初めて見たかもしれない。



あまりに突然の出来事だったからか何故か心臓がどきどきと脈を打っていることに気が付く。
なっ、な、なんで、照れてるんだ、俺…っ!
自分がそう思ってしまっていることが急に恥ずかしくなって
名前の笑った顔が何故だか脳裏に焼き付いていて、ブンブンと首を振った。



お、落ち着け、俺…!
落ち着け、ここは深呼吸だ、そうだ、そうだ…ふう。



名前からもらったもの。
中身が気になって、でも浜のことを思うと悪い気がして
とりあえず、誰も見ていないことを確認して急いでリュックに仕舞い込む。



「ハチ、何してるの?」

「わッ!」

「悪い。待たせた。…どうした?」

「おう、…いや!なんでもない!雷蔵、三郎、行くか!」



名前からもらい物をしたなんて雷蔵や三郎に言ったらまた騒ぎ出すだろうし、なんとなく…内緒にした。
そして今日はそのまま、それぞれの家に帰宅する。
家に帰って、自分の部屋へかけこむと早速かばんの中身確認する。
名前からもらったもの…、あった、夢じゃない。
ゆっくり包みを開けてみると、そこにはお菓子が入っていた。



…すげえ、マカロンじゃんか。



名前のイメージに似合わず、いかにも女子が好きそうなピンクの可愛い色をしていた。
マカロンって、作れるんだ、すげえ…!
料理部で作って、わざわざ俺なんかのために持ってきてくれたのかな…。
名前はきっと、今日俺が部活の件で話しかけたこと気にしていてくれてたんだ…。
安堵すると同時に、浜への罪悪感に襲われる自分がいる。
どうしよう、バレたら浜に怒られるな…。
そんなことを思いながら、興味本位でそのマカロンを一口頬張る。


「……うまい。」



甘酸っぱい、なんだか浜の恋愛のようだと思った。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
竹谷くんのちょっと空回りしてる感じがたまらなく好きです

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ