僕の助手は世界で君だけ

□僕の助手は世界で君だけ(5)
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衝撃の事実を知ってしまうときもあります




「…名前くん、隣……いいかい?」

「あ、善法寺先生、空いてるのでどうぞ」

「…ありがとう、はあ……。」



………最近、善法寺先生の元気がない!
いつもならお昼になれば誰よりも嬉しそうに食堂に来て、幸せそうな顔をしてご飯を頬張っているのに…。

…果たしていつからこの調子なのだろうか。

善法寺先生って、いつもならそれなりに身なりを整えているのに、髪の毛は寝起きのボサボサのままだし。
いつ何時チューしてもいいように!が口癖でリップクリームを手放さない人だったのに、唇はカサカサだし…。
心無しか頬もコケてげっそりしてきた気がする。
いつもなら気にしなかったはずなのに、ここまで気にしてしまう理由は…。



「………はああ〜…。」



善法寺先生が、あからさまに私に向かってため息を付いてくるからだ。



「はあ…、」

「…先生!今日のおばちゃんのご飯とっても美味しいですよ!」

「……そうだね、うん…」



うう…。
ため息があからさま過ぎて、その理由を聞くのが正直怖い。

…だってだって、私の仕事の出来なさで悩んでいたらどうしよう!

憧れの看護師になってから一生懸命働いているつもりだけれども、周りのベテランナース達には到底適わないし…
なんて言い訳が出てきてしまうけど…そんな考えはダメだ!
お給料をしっかりもらっているからには、私に何か不満があるのであれば改善しなくては!
どんなに大変でも辛くても善法寺先生と一緒に頑張っていこうって決めたんだもん!
よし!



「……善法寺先生、」

「ん…?」

「最近どうしてため息ばかりなんですか…?」



…ぴくん。
定食を食べていた善法寺先生が急に動きを止めて、まん丸に見開いた目で私をじっと見る。
久しぶりに見た善法寺先生のそんな表情。
それはようやく聞いてくれたね!と驚いているような顔…。



「善法寺先生!!も、も、もしかして、私何か「…この前の元彼くん留三郎に似ていたよね。」

「えっ!」



慌てて理由を聞く私をさえぎって、ドスの効いた低い声でそう言い放った善法寺先生。
ギクッ!とその単語に思考が停止して今度は私が目を見開いて善法寺先生の方を見る。

えっ!

まっ、まさか、元カレって……、連日のため息の原因って!



「……だからいっつも僕じゃなくて、食満先生食満先生って言ってたんだろうね!はああ〜!」

「言ってないですってば〜!」



連日の溜め息の原因って、この前外来の診察に来た与四郎のことかーーい!!
もー!いろいろ心配して損した、聞いて損した!善法寺先生のばかばか!
まさか元カレのことが気になっていたのか、善法寺先生ってああ見えて物凄く根に持つタイプだからな…。
食満先生に似てなくはないけど…、なんでそれが気になるのよ。



「…私そんなに食満先生って言ってます?」

「どうせ!名前くんは留三郎の助手になりたかったんだろうなあ!僕なんて全然タイプじゃないもんなあ〜(チラッ)、はああ〜ッ!」



私の質問を無視して、チラチラとこちらを横目で見ながら再び大きなため息を深くつく善法寺先生。
………ムカつく。うん。もう無視しよ。
あー!おばちゃんのご飯はいつも美味しいなあ!



「留三郎のお手伝いの時はやたらとナース服が短いと思ってたんだよなあ〜!食満先生の前じゃ気合いの入り方が違うなあ〜!!」

「……ふーんだ。」

「僕が疲れたって言っても無視なのに、食満留三郎先生様には喜んで肩揉みしてあげるもんなあ〜!
名前くんは大好きな食満先生にご奉仕したかったんだろうな〜!そういうことだったんだなあ〜!!」

「……なに人の名前で盛り上がってんだよ。」



ナース服は裾上げしてないもん!
短く見えるのは、食満先生の傍らで一生懸命作業してる私のお尻を隣の診察ブースから盗み見ているからでしょうが!
善法寺先生に肩もみしたらお返しにってお尻揉まれて以来、善法寺先生には肩揉みはしませんって伝えたことを忘れたのかな!
なんて反論してもうるさいだけだから、しないけど。
…そんなうるさい善法寺先生の真後ろに立っていたのは、間の悪い食満先生だった。



「………名前。その嫌そうな顔はなんだよ。」



失礼なヤツだな!と言いながらガタンと乱暴に椅子を引いて私の隣に座る食満先生。
今日のイチオシ定食をガツガツと男らしく食べ始めていた。
はあ…、食満先生が来たことで話がややこしくならなければいいけど。



「ほら!名前くんの元彼の話だよ?留三郎も覚えているだろう!?忘れもしないヤツの顔を!」

「………いつもくだらない話してるんだな、お前らは。」

「くだらなくないよ!僕にとっては死活問題だ!!」

「…何の死活なんですか…」

「名前くんまで!なんだい!その死んだ魚を見るような目は!やめてくれないかい!」

「あー…、元彼ってあれか。この前の変な訛りのヤツか。」



私を挟んで食満先生に負けじと熱弁している善法寺先生…やるなら二人でやってください。
ヒートアップする善法寺先生を、ポケーッと呆れた顔をして見ていた食満先生。
ふう…と食べていた手を止めて一息つくと、ググッと私の方に顔を近づけてきた。



「で、名前。ソイツとはなんで別れたんだよ」

「うっ!」

「…なんだ。言えないことなのか?」

「いや、その……っ」

「あ?何顔真っ赤にしてんだ…」

「なっ、何を思い出して……まさか!例のコスプレのことだね!?」

「コスプレ…?」

「善法寺先生!ちがいますッ!」



与四郎と別れた理由か…
コスプレの話を思い出したのかソワソワしだして、明らかに息が荒くなる善法寺先生。
もう!なんでもかんでも興奮しないでくださいってば!
この前与四郎がコスプレとか余計なこと言うからだよ…もう。



「いい人なんですけど、その……看護学校が忙しくてあんまり会えなくなって…
それでも与四郎はよくメールしてくれて…、けど…。」

「…けど?」

「…メールだとその…訛りが…すごすぎて、解読に時間がかかるんです…。
それでだんだん返すのがおっくうになって…当然なんですけど…ふ、振られました…。」

「お前は贅沢者かッ!」

「だ!だってーーー!」



そんな私のあまりにもくだらない理由に、与四郎を同情したのか食満先生に怒られた。
そのまま容赦なくペシンと頭を叩かれる。
わー!お父さんにだって叩かれたことないのにーー!!
ああん、ひどい、食満先生ってば…、善法寺先生と違って厳しいんだもん。



「なんだよその目は。」

「…うっ!」



食満先生の切れ長の目に見つめられて、不覚にもドキリとした。
私はこの目にやはりどこかで見覚えがある…。
ちらつくのはまぎれもなく、付き合ってた頃の与四郎の真剣な眼差しだった。



「こっち見ろよ…って。なに顔赤くして恥ずかしがってんだ。」

「わっ!…け、食満せんせいっ!」



食満先生に言われなくても分かるくらい赤くなる顔を必死に手で隠した。
ごめんなさい善法寺先生!
やっぱり食満先生と与四郎は似ていました!



「……留三郎と元彼くんが似てるんだって!タイプなんだって!だから留三郎が好きなんだって!」

「俺が…?そうなのか?」



あからさまに機嫌の悪い善法寺先生の声。
そ、そりゃ善法寺先生もカッコいいですけど(丸出しの下心はともかく顔は)…。
食満先生のSっ気があって黒髪で目つきの悪いところは凄く好みだ。
それなのに、たまに優しくしてくれるところにはグッとくるものがある…。



「そんなことまで言ってないです!」

「なんだよ名前。だったら付き合ってみるかー?あ?」

「ぎゃー!からかわないでください!」

「……………ムムッ。」



顎を持たれて無理やり食満先生の方を向かされるけど、食満先生の胸を押して精一杯抵抗した。
そうやってきゃっきゃしている私と食満先生に対して、善法寺先生からひしひしと負のオーラを感じる。
ああ、善法寺先生を見なくても痛いくらいに睨まれていることが伝わるよー!



「食満先生は彼女さんには優しそうですもんね!」

「今は居ないからな、どーだか…。」

「え!もったいないです!」

「そうか?…んー、まあ…」



何かを思い出しているかのように上を見上げる食満先生の表情は何故かとても切なそうだった。
なんだろう、食満先生ったら以前に元カノと何かあったのかな…。



「食満先生…?」

「そうだな!とりあえず縛るけどな!」

「………し、しば……!?」




ああ、そんな…

食満先生…!


食満先生のブースのお手伝いに行ったのに失敗して、食満先生の仕事を増やしても

善法寺先生に幾度となくセクハラされて食満先生ブースに駆けこんで泣きついても

いい加減にしろよお前はと沢山文句を言いながらも、しっかりフォローしてくれて

しゃーないな、とガシガシ頭を撫でて優しく慰めてくれる食満留三郎先生。

時には厳しく、私のことを真剣に叱ってくれる尊敬の的の、食満先生。

そんなカッコイイ食満先生もソッチ側の人なんですか…!



「縛るだって!?留三郎ッ!」

「おうっ!」



その単語にいち早く反応する善法寺先生。
やっぱり縛るってそういうことですよね!ヤラしい意味のヤツですよね!ねえ!?
さっきまで鬼の形相をしていた善法寺先生の顔がみるみる笑顔になっていく…。
ていうか食満先生もなんですか!今まで見たことないくらい可愛らしい子供のような無邪気な笑顔は…!?



「そうだな〜、名前はいいカラダしてるから縛りがいがありそうだよな!な?」

「わっ!どっ、どこ見てるんですか!」



さっきまであんなにクールでカッコイイ食満先生だったのに、不自然な程にニコニコ笑顔の彼に不気味さを感じる。
そんな食満先生に、急に両肩を掴まれてググッと距離を詰めながら下から上まで舐めるように身体を見られて鳥肌が立った。
失礼な!縛り甲斐があるとかないとかってどういう基準なのよ。



「確かに!こんなにムチムチだよ!ほら!留三郎!…はあはあ」

「あー!」



今度は何故か太ももにじんわりと暖かな手のひらの感触。
そこに目線を落とすと、テーブルの下でサワサワと私の太ももを確かめるように触っている手があった。
その手の持ち主を見ると、当然ながら目を血走らせて荒い息をはいている善法寺先生が居た。
悲しくもその頭の中は私のこの太ももを縛ることで頭がいっぱいなんだろうな。



とりあえずこの邪な手を思い切り抓っておこう…。



「いぎゃああッ!はあはあ…、留三郎…!絶対に縛り方教えてもらうからね!約束だよ!」

「おー、楽しみにしとけ。それじゃあ名前。仕事終わったら手伝えよなー。」

「……ぜったい!イヤです…!」



家に帰ったら速攻で与四郎に連絡しようとおもいました。





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食満くんも特殊性癖を抱えていそうですよね

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