ナイモノネダリ
□貂と赤
1ページ/15ページ
忘れるな。
アタシの名前は赤だ。
ああ、くそ!
失敗した。
「なんか機嫌悪くなぁい?」
目の前にいるのは、貂。
三白眼と片八重歯が目立つ男。
今日、アタシたちは久しぶりに繁華街へと足を運んでいた。
理由なんてあるようで、ない。
貂が、暇だ!とウルサイから仕方なく付き合ってやっている。
「そうだね。週末なこと忘れてた」
華の金曜日。
その為か、やけに人が多い。
平日ならばもう人も少なくなっている時間帯なんだろうが、明日が休みというやつが多いらしい。
人が減る気配がなかった。
「人酔いする……」
「大丈夫ー?どっかお店入ろっかぁ?」
いつも曜日を意識しないからこうなるのだろう。
とりあえず人混みが苦手なアタシは適当な個室居酒屋を見つけて、そこに避難することにした。
「いやぁ、それにしても赤ちゃんと一緒に歩くと目立っちゃうねぇ」
貂は呑気にアクビをしている。
「あ゙ー?赤いからだろ」
アタシの髪は原色の赤だ。
さらに眉もアイラインも赤のアートメイクをしてしまってるし、服も爪もカラーコンタクトだって赤。
通りすがりの人間は、アタシをまるで動物を見るような奇怪な視線を向けてくる。
それこそ、アタシの人酔いの原因。