ナイモノネダリ

□恢復
3ページ/7ページ




「いや、アタシ、寝起きなんだけど」


「なに言ってんの、あんたは寝起きじゃなくてもご飯食べないじゃない。だからこそ今食べるんでしょ?」


ガサガサと音をたてて出てきたのは、カップに入った雑炊だった。


「ほら、食べて。赤が体調壊して迷惑するのあたしなのよ」


「やっだぁ、レーコかっこいいー!!」


貂がわざとらしく高い声で笑う。

うんざりしながら、これ以上拒絶しても無駄なので仕方なくスプーンを手に持った。


「食べるから、貂、アンタがきた理由話して。アタシを襲った殺し屋二人について知ってんでしょ?」


「うぅーん、イーヨ」


貂は態度こそヘラヘラとしているが、一瞬崩れた表情をアタシは見逃さなかった。


電子レンジで温めたであろう雑炊をゆっくりと口に運ぶ。


食道から胃へと流れるのがわかった。


「……赤ちゃん、六十って覚えてる?」


「む、……っと?――っっ」


貂の声を聞いて、否、六十という名前を聞いて、アタシは噎せる。


驚いたのだ。


貂の口から出てきた男の名前に。


「貂、あんた直球ね」


レーコも流石に苦笑い。


そりゃあ、そうだ。

六十はアタシの弟。


血こそ繋がってはいないが、同じ親の元で育ち、幼い頃からずっと一緒にいた。


アタシの大切な大切な、弟。



だが、随分前に、絶縁している。


というか、縋り付く六十をアタシが強制的に突き放した。


あれも確か突き刺さるような寒さの、今のような季節だった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ