ナイモノネダリ
□恢復
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「いや、アタシ、寝起きなんだけど」
「なに言ってんの、あんたは寝起きじゃなくてもご飯食べないじゃない。だからこそ今食べるんでしょ?」
ガサガサと音をたてて出てきたのは、カップに入った雑炊だった。
「ほら、食べて。赤が体調壊して迷惑するのあたしなのよ」
「やっだぁ、レーコかっこいいー!!」
貂がわざとらしく高い声で笑う。
うんざりしながら、これ以上拒絶しても無駄なので仕方なくスプーンを手に持った。
「食べるから、貂、アンタがきた理由話して。アタシを襲った殺し屋二人について知ってんでしょ?」
「うぅーん、イーヨ」
貂は態度こそヘラヘラとしているが、一瞬崩れた表情をアタシは見逃さなかった。
電子レンジで温めたであろう雑炊をゆっくりと口に運ぶ。
食道から胃へと流れるのがわかった。
「……赤ちゃん、六十って覚えてる?」
「む、……っと?――っっ」
貂の声を聞いて、否、六十という名前を聞いて、アタシは噎せる。
驚いたのだ。
貂の口から出てきた男の名前に。
「貂、あんた直球ね」
レーコも流石に苦笑い。
そりゃあ、そうだ。
六十はアタシの弟。
血こそ繋がってはいないが、同じ親の元で育ち、幼い頃からずっと一緒にいた。
アタシの大切な大切な、弟。
だが、随分前に、絶縁している。
というか、縋り付く六十をアタシが強制的に突き放した。
あれも確か突き刺さるような寒さの、今のような季節だった。