短編

□枯木に思いを馳せて
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ひらりと一枚の枯葉が剥がれ落ちるように散った。
季節は木枯らしが吹きつける寒い秋。しかし教室の窓の外に広がる景色はもう冬のそれであった。
ほとんどの木が葉を落としてしまっているなか、一本の貧弱そうな木だけがまだ体に枯葉をまとっていて、まるで寒さをしのいでいるように見えた。

その光景を見ていると、とあるベタな話が頭をよぎった。
病室にいる可憐な少女が窓の外の、一枚しか葉が付いていない木を見て「この葉が落ちてしまったら自分も死んでしまう」などと戯れ言を言う話。
自分の人生の終わりをモノに託すなんて、なんてばかばかしいんだ。
思考は巡って枯れ木から少女の生い立ちについてまで及んだ。

「いーいーづーかー!」
いきなり自分の名前を呼ぶ声が聞こえたと同時に、教科書で頭をぱこんと叩かれる感覚で一気に現実に引き戻された。
「いてっ。」
殴られた方面を恐る恐る見上げると、怒ると怖いと有名な生物教師の永井が、それは鬼の形相で立っていた。
そうだ、今は3時間目の生物の授業中であった。よりにもよって永井の授業中に妄想してしまうとは。
自分を責めてみても後の祭りで。

「飯塚ぁ、俺の授業でよそ見をするとはいい度胸だー。」
「あ、す、すみません…」
それから数十秒、二発目の教科書攻撃をなんとか逃れ、永井は授業を再開し黒板へと向かい歩いていった。

脅威が去っていく後ろ姿にため息をひとつつきながら、懲りずにまた窓の外の木をちらりと見る。

怒られる発端となったその枯れ木は相変わらず身を風に揺られながら葉を散らしていた。
その姿に1つ溜息をし、黒板の文字を写すためにノートにペンを走らせた。

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