短編

□あの空は輝いているのか
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その機体は徐々に速度を上げながら地面を走り、前輪がふわりと浮いたかと思うと空を切り裂いて飛び立った。

私たちは滑走路を走っては飛び立つ飛行機を見下ろせる場所、いわゆる空港の展望デッキにいた。
屋外なので空気が動く毎に風に髪がなびく。
また吹いた風を気にしながら手で髪を抑えつけていると、一緒に来ていた康太が飛行機をボーッと見ながら
「……いつ見てもすげーよなー。飛行機が飛び立つのは。」
とぽつりと呟いた。
まあ一緒に来たというよりも、半ば強引に連れてこられたのだが。

先ほど飛び立った飛行機はすでにはるか上空の、私たちの頭上にいた。そして雲の上へと向かい見えなくなってしまった。

「飛行機ってすげーよな!なんであんなきれいに飛ぶんだろー。」
隣で目をキラキラと輝かせながら話す横顔を一瞥する。
その姿を見てると、なんとなくおちょくってみたくなった。
「飛行機が飛ぶ原理って、実はよく分かっていないらしいよ。」
「うっそ!?」
次に飛び立とうと、滑走路を走っている飛行機を眺めながらいった。
「知らなかったなあ……
よくそんなもの作って、そしてたくさんの人を乗せてるよな……」
「人が空を飛びたいという気持ちがそうさせたんじゃないの?」
それが本当かなんて知ったことはなかったが。

「じゃあさ、俺も空を飛びたいって思っていればいつか飛べるようになるかなー。」
隣を見ると目を輝かせながら、離陸しようとしている飛行機を眺めている康太の姿が目に入った。
「……そ、それはさすがに無理なんじゃないの。」
夢を壊したくはなかったが、そろそろ現実というものを突き付けてやらなければいけない年である。

「でも、わかんねえよ。
人は思えば空にだって、宇宙にだって行けるんだぜ。
俺も宇宙行きてー!」
手をブンブンと振ってはしゃぐ姿はまさしく子供であった。
「あんたそのまま宇宙に行ったら大気圏突入で燃え尽きるか、真空で窒息死よ。」

また、飛行機が空へとはばたいた。

態度が急に落ち着いた。どうみても明らかに落ち込んでしまったみたいだ。
「ううん、そうかあ…
でもよう、最初から不可能と決め付けてかかるより、何でも試してみた方がいいと思わねえか?」
なあ?と、いつのまにやらこちらを向いて、真剣な顔で問い掛けてきた。
風が私たちの間の邪魔をする。

「……」
「……」
見つめあったまま、沈黙。
遠くに機械音だけが響く。

「……まあ、そうだけど、あんたバカだから死なない程度にね。」
沈黙を破ったのは私。
滑走路に視線を向け、呟くように言葉を発した。
「な、なんだよー。そのいいかたー!」
少し怒ってみせても、飛行機が動きだすのをかぎとると食い入るようにその機体を見つめる。

……本当に、バカだわ。

飛行機を真剣に見つめる横顔を眺めているとこちらの視線に気付いたのか、ふとこちらを見て「なんだよ」と聞いてくる。
「別に」と返し視線を滑走路に戻すと、「なんだよ……」と言いながら同じ方向に視線を移す。

飛行機はまた陸から離れ、青い空へと飛び立っていった。

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