短編

□「青」の独白
1ページ/1ページ

青という色は、自然界に存在し得ないんだよ。
その証拠にホラ、青い薔薇なんてのはないし、青色のライオンなんてのは聞いたこともないだろう?

ウン?
空は青いじゃないかって?
海は真っ青じゃないかって?
はは、冗談はよしてくれよ。
空が青いのは太陽の光が大気を散乱しているからだよ。
海が青いのは空の青が写っているからだよ。

真実なんて、所詮こんなくだらないものばかりだよ。
ふふふふふ。あ、失敬。
別に馬鹿にしているわけではないのだよ。

コホン。
さて、唐突だがここで問題だ。
今私の手の中にある青い小箱。
この中には何が入っているか、わかるかい?

おおっと、触るのはなしだよ。
そこから見て当ててごらん。
え?そんなの超能力者でなければ無理だって?
そんな事はないさ。
もちろん、私にはわかる。
え?自分で用意したのだろうから、そりゃわかるだろうって……

はは。それを言われてはお仕舞いだがね。
しかし例え誰かが用意した箱の中身であっても、私には答えることが可能だ。
私を誰だと思っているのかい。
ホラ、これを見てもわからないかい?
……そうか。

コホン。
私は始めに自然界に青など存在し得ないと言ったね。
それでは何故、「青」という概念が存在しているのだろうか。
答えは、造ったからだよ。
人間が「青」を欲し、そして「青」を創ったから、この世には青がある。

それでは、何故私が此処に存在しているのだろうか。

それは、造られたからだよ。
人間が「私」を欲し、そして「私」を創ったから、この世には「私」がある。

ん?それでもわからない?

まあ、いいでしょう。
不自然な色であっても、そこに存在し続けるだけで自然なものとして受け入れられる――
私もまた、そういう存在なのかもしれませんからね。

え?
それは嘘だ、と。

……そうです、すべてが嘘なのです。
私の存在も、この小箱も、小箱の中身も、青色も、海も空も、薔薇も百獣の王も大気も宇宙も有象無象世の理の全てが、嘘なのです。

もちろん、「あなた」の存在も――


「私」はひとしきり話をしたあとに、ゆっくりと手の中の小箱を開けた。

そしてそれをガラス越しに見守る人ひとヒト――

箱の中身は、虚言。



狂った誰かさんによる、独白。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ