短編

□血に飢えた口付け
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※微エロ?、血表現注意



吸血鬼とは、人間の生き血を啜り太陽とニンニクと十字架が苦手だ、という程度の認識であった。
それが本当か否かはどうでもよかったのだが、目の前の椅子に座る男を見ていると、それはあながち間違いではないと思った。

「それで?吸血鬼さん。
私をここに連れてきた訳をお聞かせ願いたいわ」
私は腕を組んだまま仁王立ちをして、正面の椅子に腰掛けている男……吸血鬼に話し掛けた。
「……吸血鬼なんてダサい呼び方は止めてくれよ。
スマートに『ヴァンパイア』と呼んでくれたまえ。頼むよ、マドモワゼル」

私の態度を微塵も気にせず、『吸血鬼』は平然と隣の机に置かれたボトルからワイングラスに赤黒い液体を注ぎ入れた。
そして長い指をステムに絡ませると、グラスを目の高さまで持ち上げた。
グラスを軽く揺らすと水面が妖しく波打つ。
その様子を暫し楽しんだのち、こちらへ紅い瞳を向けた。

吸血鬼とヴァンパイアなんて些細な違いなものだろう。というより、ほとんど同義ではないか。
そう思ったものの、目の前にいる『ヴァンパイア』の威圧感に従わざるをえなくなっていた。
「……それではヴァンパイアさん。
そんなスマートな方が、人攫いのような真似をするかしら」
つい本音が口から零れてしまったのをすぐに後悔したが、またしても『ヴァンパイア』は気にしていないようで、グラスに口を付けゆっくりと中身を堪能していた。

そう、私は『ヴァンパイア』によってこの場所に連れてこられたのだった。
薄暗く、太陽の光が入らないこの部屋へ。
連れてこられたというより、連れ去られたと言った方が幾分か正しい。

それにしても、ここはどこなのだろうか。
決して広いとはいえない室内だが、その異様な雰囲気に圧倒されている。
壁も床も冷たい石造りで、天井は身長の三倍ほどありそうな位とても高く、上の方に一つ小さな窓があるだけでとてもじゃないけど届かない。
その窓からは月明かりが優しく差し込んでいる。
一方で普通ならあるはずの扉がどこにも見当たらない。

とにかく今はここから脱出することを最優先に考えなくては。
高いところに位置する窓は日中の日差し対策なのだろうか。ともかく、私がそこから逃げ出すのは不可能だろう。

キョロキョロと辺りを見渡していた私に、グラスの中身を飲み干し終えたヴァンパイアは視線をこちらに向けククッと喉を鳴らした。
「逃げ道を探しているのかね、マドモアゼル。
だったら諦めたほうがいい。この部屋唯一の出入口はあそこなのだから」
そう言い指差した先には、先程も見た小さな窓。
確かに飛べるヴァンパイアならたやすく出入り出来るだろうが、生憎私には飛ぶ手段はない。
身体中の血の気が、サーっと引いていく感覚がした。

逃げ出せられないという絶望に苛まれながらも、それでもこの男に屈するつもりはなかった。
「……私を、どうするつもり……?」
意を決し、ヴァンパイアと正面から対峙する。
「それは愚問だよ。
私はヴァンパイア。することといえば一つ、だろう?」

椅子からゆらりと立ち上がったかと思うと、急に視界からヴァンパイアの姿が消えた。
その光景に驚き瞬きをした刹那、世界が反転した。

背中には冷たい床の感覚。
視界に映り込むは天井。
そして次に視界に飛び込んできたのは、ヴァンパイアの顔。

ヴァンパイアは私の両手首をそれぞれの手で床に縫い付ける。
グッとヴァンパイアの体重が私自信に掛かるのを感じて初めてヴァンパイアが私の身体を跨ぐように馬乗りになっているのに気が付いた。
つまり端から見れば、ヴァンパイアが私を床に組み敷く体勢になっていただろう。
「……どういう、つもり……ですか」
正直、嫌な予感が駆け巡っていた。
「どういうって、もちろん君のを頂くのさ」

いただくって……と聞き返そうとした矢先、ドラキュラの長い右手の指が私のブラウスの襟にかかり、それからゆっくりと下に降りていくと1つ2つとボタンを外していった。
首もとが外気に晒されていく。
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