短編

□二分の一にしよう
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泣いていた。
夕暮れの川のほとりで泣いていた。
今思えばなぜあの時にあんなに泣いていたのかが思い出せないが、とにかく悲しかった。

河川敷でうずくまるように声を殺してただただ涙を流していた。
このまま涙で川が増水し、そのまま私ごと流してくれないかな、となんともバカげたことを思ったりもした。
遠くでは誰かと誰かの楽しげな声が響いて、私が一人であることを痛感させられ余計に涙が出た。

誰か。
私に気付いて欲しい。私が、ここに確かにいることを証明したい。
泣きながらも懸命に糸を手繰り寄せる私はどれほど滑稽であっただろう。

だから。
俯いた頭に優しく乗せられた手に必要以上に驚いてしまった。
涙を貯めたままの瞳を手の主に向ける。
彼は私の滑稽な顔を笑うことなく、無言のまま隣に腰掛けた。

そしてそのまま向こう側に沈んでしまう太陽をじっと眺めていた。
私は、彼と太陽を交互に見た後、彼と同様に太陽を見つめることにした。

街並の向こう側に落ちていく太陽と、その光を反射させる川に思わず目を細めた。
その顔を見られたのか、涙で腫れぼったい顔を見ても笑わなかった彼が、クスリと顔をほころばせた。

「半分。」
首を傾げていると彼は言った。
「泣いている君を見た時、僕は悲しくなった。だから半分。
そしてもう君は泣いていない。そして僕は笑った。
だから次は君が半分にする番。」
そういって更に表情をにこやかにした。

半分。
悲しみも、喜びも二で割ってそれぞれ与えようというのか。
不可算なものを半分にするなんてバカげていると思ったが、これが彼なりの優しさだとすぐに気が付いた。

だから彼の気持ちに応えるために、ぎこちなく表情を作った。
そうすると彼は先ほどのように優しく頭に手を乗せて撫で、そして立ち上がり背を向け去っていった。

これは彼の気紛れなのか。
けれども垣間見えた彼の優しさにどうしても打ちのめされている私がいたのは事実であった。

いつか、この気持ちも半分こにしてくれるのかな。

遠く離れた背中に向かって呟くように問い掛けても、もちろん返事はなかった。
悲しかっただけのあの日、私に光をもたらしたのは紛れもない君だったのだ。

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