短編

□流れ星にひとつ
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ふと窓から眺めた夜空にはたくさんの星が落ちてきそうなほどに瞬いていた。
その光景をじっと眺めていたけれども、いてもたってもいられなくなり、薄い毛布を押し入れの底から一枚引っ張り出して空が綺麗に見える丘に向かって走っていった。

丘の頂上まで駆け上がると、澄んだ空には数えきれないほどの星が輝いて見えた。
ゆっくりと草の上に腰掛けて、毛布をぐるりと体に巻きつけ再び空を見上げる。

ただ無心で夜空を眺めていると、ある考えが頭のなかをかすめる。
死んでしまった人が星になるというならば、あの人もきっとあの無数に輝ける星々の一つとして今も地上を優しく照らしてくれているのだろうか。と。

不意に一筋の光が夜空を横切った。
それはきらりと光ったかと思うとすぐに空の彼方に消えてしまった。
一瞬の出来事だったのでよく理解できないでいたら、しばらくすると次々と光の筋が空へ描かれていった。

「流れ星…」
何かお願いをしなければと両手をあわせてはみたけれども、すぐにその手を地面へと下ろした。

今更星に願うことなんてなにもないだろう。
せめて、せめてあの人がいてくれれば。
そんなことを思いながら肩にかけた毛布をしっかりと掛けなおし、ただ流れ星を眺めた。

それから流れ星は少なくなることはなく、むしろその数を増やしていった。まるで夜空に輝く全ての星たちが降り注いでいるように。


急に、一つの願い事が浮がんだ。
それはこのロマンチックな光景とはまるで不釣り合いな、それでいて我が儘な願い。

それでも彼の星が落ちないようにと再び両手を合わせ、少しでも届くようにとゆっくり目を閉じた。


無数の星の、たった一つの君に

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