短編

□最後のなつやすみ
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夏。
外では蝉が煩いほどに鳴いている。
今日の天気は晴れ。
しかし青い空にどっしりと白い入道雲があるので夕立があるのかもしれない。
そんなことを思いながら私は今夜行われる夏祭りに思いを馳せていた。正確にいうと、夏祭りに一緒にいく先輩の事を考えていた。


去年高校に入学したとき初めて先輩と出会った。
先輩はとても優しい人で、同学年からはもとより先輩後輩にも慕われ尊敬されていた。幾分もしないうちに私も先輩のことを憧れるようになった。
それからも色々と話したり一緒にいるうちに、先輩への気持ちが憧れではなくて好きという感情なのだと気付いた。


そんな去年の夏。今年と同じように蝉がうるさいほどに鳴いていたあの日。
みんなで、と誘われ大勢でぞろぞろと出かけた夏祭り。
あの時はただただ緊張していて草履の鼻緒が指の付け根をぎゅうと締め付ける感覚に顔をしかめながら、みんなの背中を追い掛けるのが精一杯だった。

始終そんな感じだったから、先輩に一言も話し掛けることすら叶わなかった。
先輩の笑顔が花火のように眩しかったことだけ覚えている。


それから何度も気持ちを伝えようとしたが、ついにその機会が訪れることなく一年がすぎてしまった。
ただ好きだという思いだけ持ち続けることしか出来ずにもやもやとした感情が渦巻く。
しかし先輩の姿が見れて、時々話もして笑いあえているその時間がなによりも好きだったから、このままでもいいかなという気持ちもあったけど。

けれどそんな時も終わりが近づいている。先輩は三年生で、来年には卒業してしまうのだから。
つまりこれが先輩と一緒に過ごす最後の夏。


今日は告白の一大チャンス。
今年も、と大勢でぞろぞろと夏祭りに出かけることになっていた。
その日ちぎれ雲が夕日に照らされオレンジ色に染まるのを眺めながら、心に決めた。

今度こそ伝えよう。
この溢れだす想いを。
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