短編

□小指の約束
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不意に出された小指の意味を理解するのに数秒を要した。
ゆびきり。
きっと彼女は僕に約束を破らないように念を押したいのだろう。
了解の合図の代わりに己の小指を差し出す。そしてゆっくりと互いの小指を絡ませると、彼女のぬくもりが指を伝って全身に広がる。
どちらかともなく拳を軽く上下に動かす。
「ゆーびきーりげーんまーんうーそついーたらはりせーんぼんのーます」
彼女の唇が優しく歌を紡ぐ。その間彼女が何を思っているのか、僕には知る由もない。
ゆびきったーと彼女が歌い終わっても暫く小指は繋がれたまま。離したくなかった。出来ることならずっと。
しかしそんな淡い思いも届かず、いとおしげに指が離れると同時に彼女のぬくもりも遠ざかる。

「……それじゃあ。」
僕は決心し、別れの言葉を紡ぐ。彼女をしっかりと見つめながら。
「死なないでね、約束よ。」
目の前には泣きそうな顔。多分僕も同じような表情になっているのだろう。それでも気丈に振る舞わなければいけない。
「ああ、必ず戻るよ。」


僕らはこの行為がまったくの無意味であることと僕がおそらく生きて再び彼女に会うことは出来ないと知りながらも指を切った。
それでも明日を繋ぎ止めるために、僕は彼女と約束をする。

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