短編

□世界のすべてが今日終わってしまったら
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※死ネタと微血表現とBL?注意




「……はっ、なに偉そうなこと言ってるんだよ。」
そう鼻で笑うと、目の前の額に向かってデコピンを放った。
痛そうに額を右手で押さえ口を尖らせている姿を見て少し安堵した。

「お前はまだ生きている。
額の痛みも感じるし、された行為に対して怒りも抱ける。」
俺は真剣な顔をしていたのだろうか。真向いにある顔も自然とこわばっていった。
「だから、死ぬとか、いうなよ…」
自分でも語尾が弱くなっていくを感じた。
泣きそうな感情を押し殺すように下を見る。
しかしその視界に入ってきたのは、目の前の体からとめどなく溢れる鮮血が作り出した赤の水溜まり。
死が紛れもなくそこにあると嫌でも認識させられた。

ふと頬に温もり感じたので顔をあげると、弱々しい右手が俺の左頬をそっと撫でていた。
左腕はとうに感覚がなくなってしまっているのか、ぴくりとも動いていない。
ただ頬から伝うぬくもりが生を実感させてくれた。
相手の右手にそっと左手を添えると、ゆっくり頬笑み、そしてこう言った。

「ごめん。
けれど、無理、なんだ。」
頬に添えられていた右手が段々と下がってゆく。
俺はたまらず両手で握り締めた。
「自分が、もう駄目な事くらい、わかる、さ……
だから、せめて、あんただけでも、明日を迎えてくれ。」
苦しそうに言葉を吐く。
俺は堪らず首を振った。

違う。そうじゃないんだ。
俺一人だけが生き残ってもしょうがないんだよ。
俺ら二人の明日がなくなってしまうことが、俺の世界の終わりのような気がするんだよ。
「だから、消えないでくれ。」


最期に伝えようとした願いは届かぬままに。
冷たくなった唇を右手の親指でそっと撫で、ゆっくりと自分の唇を合わせた。

頭上を再び弾丸が飛び交った。


「私が死んでしまっても、あんたは絶対生き残れ。」
伝えたかった最後の気持ち

 

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