短編

□オレンジ
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海岸に到着すると、今まさに真っ赤な夕日が水平線の向こうに沈んでいこうとしているところだった。
太陽のオレンジに応えるように水面もキラキラとオレンジに乱反射する。
きれいな情景とは裏腹に海岸はこれから来る闇夜に備えてひっそりとしていた。

その景色をただ立ちすくみ見ていた僕は、僕の横を駆けて波打ち際までいった彼女に暫く気が付かなかった。
彼女は初めてみた海に興味津々で、波が押しては引いていく様をまじまじと見つめたあと寄せては引く波の同調するかのように海に近づいては離れるという動作を繰り返していた。水しぶきが、眩しく光る。
僕はというと彼女があまりにも楽しそうに駆け回っているのを見ているだけで心が満たされていく気がした。
オレンジの砂浜にゆっくりと腰を下ろて彼女と海と夕日を眺めた。

海を見たのはこれが初めてではないけれど、こんな幻想的で美しい海は初めてかもしれない。
沈んでいく夕日は輝きを増し僕たちをオレンジに染める。
彼女は相変わらず波と遊んでいた。ぱちゃぱちゃと海岸線を走り回る音と、波が海岸に打ち付ける音が響く。彼女もすっかりオレンジに染まっているようにみえた。

「   。」
そんな美しい情景と彼女を見ていると自然に声をかけていた自分に気が付いた。
彼女はくるりとこちらを向き、嬉しそうに駆け寄ってきた。
ずいぶんと塩水を浴びたようで、服の裾がしっとりと湿っているのがわかった。
座っている僕の隣に来て、僕の左側に同じように腰掛け海を見つめる。
砂浜に映る二人の影はずいぶんと長くなっていた。

「こんな綺麗なもの初めて見た。」
彼女は相変わらず海を眺めながらそう呟いた。
「僕も、こんな綺麗な海は初めてだよ。」
同調するように返事をして、ちらりと横目で彼女を見る。夕日に照らされてキラキラとオレンジになった姿を見て、改めてこの風景と共に独り占めしたいという思いがわいてきた。
ゆっくりと彼女の左肩に手を添えて、ゆっくりとこちら側に引き寄せた。その行動に少しびっくりしたようにこちらをみたが、直ぐに頭を僕の左肩に預けてくれた。
そのまま僕たちの視線はまた海へと注がれた。

「この海の向こうには何があるのかしら。」
彼女がまたぽそりと呟いた。沈んでいく太陽はその答えを知っているのだろうか。
その答えを持ち合わせていない僕は、ただなにがあるんだろうねと同じように呟くしかなかった。


そのまま僕たちは今日の夕日が今日とさよならするまでずっと眺めていた。
キラキラのオレンジがゆっくりと影を落としていく様は息を呑むほどに美しく幻想的で、この光景を二度と忘れてしまわぬようにと必死に目に焼き付けた。

そのうちに、陽はすっかり水平線の向こうの向こうに飲み込まれてしまっていった。

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