短編

□本日自殺日和
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※一部微グロと自傷と血描写注意





彼女は自らの両手を首に添えると、ぎゅっとその細い首を締め付けていった。
無表情だった顔が次第に苦痛へと歪む。しかしそれと同時に恍惚な表情も浮かべていた。
きりきり。
次第に呼吸が荒くなっているが、それでも彼女はその手を離さない。
その様子を僕は目の前でじっと眺めている。時折切なげに吐息が零れる。苦しいのだろうか。苦しいに決まっている。自らが自らを生から死へと誘っているのだから。
もう余裕がないのか色素が薄くなった唇の間から赤い舌がぺろりと顔を出した。その紅がなんとも妖しく美しい。
思わず見惚れていると、ついには彼女は自らの首から手を離した。荒い呼吸が辺りに響く。

ある程度落ち着いたところで彼女は呟くようにいった。
「自殺にも色々あると思うんだけれども、やっぱり死ぬなら首吊りね。だってこんなにも苦しく甘美な時間はこの世にはないもの。」
嬉々として語る彼女。しかしそんな彼女に異議を唱えるように僕はいった。
「首吊りは死ぬ瞬間はいいかもしれないけど、死んだあとはすごく汚らわしいよ。筋肉が弛緩してそこら辺に汚物を撒き散らしてしまうんだから。
そんなの君の最期にはふさわしくない。だから僕が君を刺してあげるといっているじゃないか。」
「いやあよ。だって痛そうじゃない。私苦しいのはいいけど痛いのはいやよ。」
その二つになにの違いがあるのだ。疑問に思っても口には出さずに反論をする。
「けど赤に染まる君はとても美しいと思うよ。」
紅い花を咲かせて横たわる君を想像しただけでも身震いがする。なんと君にふさわしい最期だろうか。
「そうかしら。」
誉められて少し機嫌をよくしたようで、頬を少し赤く染め笑みを浮かばせる。やはり君には紅が似合う。

こうやって、僕らは妄想と現実の間を毎日行き来している。生きるわけでもなく死ぬわけでもない曖昧な存在に成り果ててしまったのだ。
だからこそ彼女は最も甘美な死を好み、僕は最も美しい死を願う。


それでも君は今日も死なない。

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