短編

□暗殺者2
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初任務が終わったあと、

すぐさま死体処理を済ませ、
アジトに着くなり部屋に籠った。



『うっ・・・く、』


ベッドにダイブして
シーツに顔を押し付ける。

報告書が残ってるけど
食後でいいかな。


引き金を引いた手が震えてる。




人を殺してしまった。




一般家庭で育った私にとっては
非道徳的行動。違法。
この世で最もしてはならないこと。
そう教えられてきたのだから
この反応が当たり前なのだろう。



その人の人生を絶たせたんだ、私。



こわい。

死んだ人間の姿が目に焼き付いて
離れない。

弱い私だって、他人事じゃない。




今回は隊長がいたからよかったけど
いつ殺されるかわからないし
下っ端の中でも下っ端の私は
生き残る可能性のほうが低いかもしれない。


今日の、あの標的の死体に
自分が殺された時の姿が重なる。




―ガチャ


「報告書ー・・・ってあり?」


ノックもなしに入ってきたのは
ベル隊長だった。


『すみません・・・、』


瞬時に泣きやんで
隊長と向き合う。



「お前泣いてたの?」
『申し訳ありません。今すぐ報告書に取りかかりますので。』


デスクに向かおうとした私の腕を
隊長が掴んだ。




「何で泣いてんの。」
『今日のこと思い出して。』
「人殺したことがそんなにこわい?」



隊長のいたいほどの視線に
思わず俯いてしまった。





「お前さ、そんなんじゃこれから生き残っていけないんじゃね?」
『・・・』
「ここは暗殺部隊ヴァリアー。弱者なんかいれねーし、いたとしてもすぐに消されるのがオチだぜ。」



現実的な言葉に涙が出る。

どうしてそんな意地悪を言うの。

ただでさえこっちは追い込まれるのに
さらに追い打ちをかけるような言葉。
少しくらい励ましてくれたっていいじゃない。



「温くて甘くて、善良なるマフィアなのはボンゴレ本部だけだよ。俺らは裏でやってるし、暗殺が本業だから失敗は許されない。」
『わかってます・・』





「入隊試験受かる実力持ってんだろ?」
『・・・』
「最低でも七カ国以上の言語習得。それだけで他の職業就けたんじゃね?」
『私だって殺し屋になりたくて、なったわけじゃありません・・・!!』


七カ国以上の言語を操るのは
私にとってそう難儀ではなかった。
中学のころから英語は得意だったし
英検1級だって中1の頃にはとった。
それがおもしろくて
どんどん他の国の言葉を学んだ。


暗殺部隊なんてありえなかったけど
私にはこれしか方法がなかった。
この道しか残されていなかったのだ。



「入っちまったもんは仕方ねーよ。お前が脱退するってなら始末される。お前が生きていくためには人を殺し続けることだけ。」
『ふぇっ・・・、』


「逆にさ、何で今日お前は人を殺せたわけ?」
『死にたくないから、殺したんですっ!』
「それでいいんじゃね?」
『え・・・?』
「生きていたい奴のしぶとさって案外すげーと思うんだよね、俺。」
『・・・』






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