深淵

□黒い欲望
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僕は人間じゃない…

僕はとても醜い化け物…

それでも君は、はっきりと

「愛してる」

って言ってくれたよね。

なのに、どうしてそんなに泣くの?

僕は君のその言葉が本当に嬉しくて、ずっと君に尽くして来たのに…

人も物も関係無く、君を邪魔するものは何もかも全部始末してあげたのに…

僕達はやっとふたりきりになれたんだよ。

嬉しくないの?

あの頃みたいな、可愛い笑顔を見せてよ。

それでも君はそうしてくれなかったから…


僕は泣き叫ぶ君の中を、自分の想いでいっぱいにして、君の温かい心をこの手で直に奪い取った。

僕の手の中で、君の心はまだ動いてる。

だけど、君そのものはもう永遠に動かない。

これで君は完全に、僕だけのものになった。


その時、僕はとても嬉しかった。

本当に、嬉しかった…


だけど気付いてしまったんだ…


僕の手の中の、君の心も動かなくなった。

そして、後はただ、君の心も、君そのものも、冷たくなっていくだけ…

そう、人間は誰でも必ず死ぬ。

放っておいても、絶対にその時が来る。

僕は君を、完全に支配出来たと思っていたけど、実際は何も支配出来て無かったんだね…

それならせめて、僕の身体の一部になってよ。

この深紅の心も、白くて柔らかな肌も、甘い血も…


だけどそうしたら、やっぱり何だか物足りなくなった。

だから僕は決めた。

この冷たくて暗くて澄んだ湖に、深くこの身を沈めよう、と…


Fin.



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