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俯いた視線は、組んだ自分の指をじっと見つめていて(GZ)
お題配布元:リライト様

「ザックス」
 なぜ今ごろ。
「ジェネシス、久しぶり。覚えてくれてて嬉しいよ」
 俯いた視線は組んだ自分の指をじっと見つめ、俺を見ようとしない。そんなザックス、俺の記憶の中になかった。

 唐突にザックスが消えてしまった、苦い過去。なにも告げず、携帯の番号もメールアドレスも変えて。俺の想いだけが置き捨てられた。捨てる決意をするには、それから2年をも要した。
「ホントは、さ。3年前に告げたかったんだけど」
「もう忘れた、帰ってくれ」
 そう告げればザックスは泣きそうな顔で笑った。
「俺も、会う気なかったんだ」
 ならば何故。堂々巡り。

「3年なにもなければ、その時に会おうって思ってた。あと少しだったのに」
 そうしてザックスは一見、3年前と変わらぬ笑顔を作る。
「見つからないようにひと目、それだけのつもりだったんだ。ごめん」
 まさか、おまえ。
「やっぱり分かっちまうか。ジェネシス、頭いいもんな」
「それで姿を消したのか」
「悪かったよ、今更あやまってもだけど」
「それで症状は。その……再発、したの、か」
「来週、手術で。だからどうしても」

 3年前の告白。いつも告白される側の俺にとって、初めての経験――時間くれ、必ず返事する――ザックスからの答えはまだ届いていない。

「理由があるんだ、なにを遠慮した。普通に会いにくればよかろう」
「病室抜け出して会いにきた奴が死んだりしたら、いい気持ちしないだろ」
「いいや、おまえが会いにきて俺は嬉しい、それだけだ」
 きょとりと目を丸くするザックス。細くなった輪郭に、ひとなつっこい瞳が映える。
「もし死んだらすぐ俺も行ってやる、安心しろ」
「そんなことで命を捨てちゃダメだ」
「俺の命を思うなら、自分をなんとかしろ」
 ようやく振り切ったおまえへの想い、もう1度捨て去る覚悟を持つ余裕などない。

「ろくに歩けもしないくせに……さあ、送ってやるから帰ろう」
「う、うん」
 歩きだそうとした俺の背へ戸惑う視線。
「あの、病院はそっちじゃ」
「帰ろう、と言ったんだ、俺は」
 そっと握った手、絡めた指。
「俺の元以外のどこへ帰ろうというのだ、おまえは」
「ジェネシス」
「おまえにかけさせる一夜の負担、俺の後追い程度では足りぬかもしれないが」
 ザックスがかぶりを振る。
「必ずと言った俺への返事も、まだ時間が足りないか」

 力強く握り返された手を引き、ザックスを抱き上げた。

2012/06/04
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