企画作品集


□白い兎と白い雪
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あれ、これデジャヴュ?
この前もこんな依頼なかった?そんで俺、半泣きじゃなかった?

混乱した俺を、依頼主であるお人形さんが不安そうな目で見つめてくる。とりあえず、お客を不安がらせないのは大事だし、話だけでも聞いておこうと、俺は引きつった笑顔を浮かべる。

「とりあえず、どちらまでアナタをお運びすれば良いんですか?」
「家…あっ、僕の家まで」



話を聞く過程で、衝撃を受けることが3つあった。
ひとつ、お人形さんが男であること。
ひとつ、お人形さんの恋人へのサプライズに自分を配達してほしいこと。
ひとつ、住所がわりに近所だったこと(なら自分でやれば?と言った俺に、お人形さんは怒るでもなく『驚かせたいから』とはにかんで笑った。リア充め爆発しろ)。



「…わかりました。こちらの方はそういった内容でも構いません。が、いくら近距離でも人を運ぶとなるとそれなりの料金をいただきます。それに、ウチの配送料はかなり高めです。それでも良いんですか?」
「いくらくらい、しますか?」
「そうですね…」

ざっと計算してみせた料金を見て、お人形さんはホッとしたような笑顔をした。

「大丈夫です。思ってるより、安くてよかった」

最近の若い子って何考えてるかわからないよ。おじさん怖いよ。
でも、まあ、この前の人間配達よりはかなり楽そうだ。精神的にも肉体的にも。

「わかりました。それでは、行きましょうか」
「はい」

立ち上がった俺を見上げて、お人形さんは砂糖みたいなほほ笑みを浮かべた。





たどり着いた、という表現が正しいマンション。お人形さんの案内がなければまずたどり着けなかったであろう彼の住まい。
何がどうとかじゃなくて、何かこうわかりにくかった。それでもまぁ、着けたから良かったけど。

「じゃ、いいすか?いきますよ?」
「…はい…お願いします」

お人形さんに確認を取ると、俺は軽い掛け声とともに彼を抱き上げる。
………お姫さま抱っこで。

車内で一悶着あったこの配達方法だが、俺が折れた。
お人形さんが可愛いからってのもあるけど、何よりもうめんどくさかった。早く終わらせて早く帰りたい。

サプライズだろうが何だろうが、もうこれ以上俺がこの子に驚かされることはないだろう。

俺に抱えられたお人形が、インターホンに手を伸ばす。電子音の後、

「ちはー、白兎運輸サービスでーす」

軽い調子で声を出す。
ていうかお人形さん軽いな。

「…はーい」

少しの間の後、穏やかだった心境の俺の目の前に現われたのは、

「え?」
「は?」

しゅっとした見た目の少年…男、だった。




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