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□STORY MAKER(1)
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□ scene1「物事を主観的にばかりとらえるのはある意味幸福なことである」
曇天だ。
俺は左右のリードを左手から右手に持ち替え、スニーカーを引きずるようにして歩き、空を一瞥してからタバコを取り出した。ここまでの動作は流れるように完璧。今日は調子が良い。
左右が電信柱に求愛を始めたから、俺も立ち止まってゆっくりと煙を吸い込んだ。
しばらくそのままぼんやりタバコを吸って、吸殻を踏みにじってから左右を急かす。
「行くぞ。お前は犬なんだから、そんな鉄壁女とは付き合えねーよ」
左右は少ししょぼくれて、未練がましそうに電信柱から離れる。再びリードを引きながら、俺は左右を慰めた。
「確かにあの子はキュートだったさ。でもあんなにがちがちのガードじゃ駄目だ。少なくとも、ベンツくらい乗れるようになってからじゃないと、ああいう手合いの女は無理だ」
それでも左右は名残惜しそうにしている。
「どの道あの子はビッチさ。他の犬にもああやって思わせぶりなことをしてるに違いねーよ」
そう言ってやると、ようやく納得したのか、左右は尻尾をふりながらしゃんと歩き出した。
一応言っておくけど、俺は別に犬の言葉がわかるわけじゃない。犬しか話し相手のいない可哀想な奴でも、痛い奴でもない。
人生にちょっとした物語性を加えることに、人より少し長けているだけだ。
人は俺のことを、ストーリーメーカーと呼ぶ。