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□STORY MAKER(2)
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□ scene2「自分だけの世界を作れるというのは幸福なことである」
タバコが切れた。ずぶ濡れになった後帰ってシャワーを浴びて気分爽快!さーて湯上りに一服って時に、タバコがちょうど終わった。
仕方なく近くのコンビニまでぶらぶら歩く。最悪、とか思ったけど湯上りで火照った頬に夜風は気持ち良いし、さっきの雨も上がってるし、まあ、そこまで最悪な状況ではないかも。
鼻歌でも歌いたい気分だぜ、とか思ってたら、俺より先に同じことを考えてた奴がいたらしい。歌が聴こえた。ご丁寧に楽器まで持参したのかギターのBGMもついてる。深夜、ギターの弾き語り、なんて素敵なシチュエーション!って言いたいところだけど、残念ながら歌の主は超絶音痴だ。
先の方に見えてきた駅前の公園に、ミュージシャンはいた。幸せそうな笑顔を浮かべた遊具たち相手に、一心不乱でギターをかき鳴らしながら歌うそいつは、大学生風の青年だった。
あー頑張ってんなあライブでも近いのかなあ、なんて考えながら通り過ぎようとしていると、ちょうど歌が終わったらしい青年が辺りを見回す。そして、俺を見付けて、笑顔になった。
え、何でそんな嬉しそうな顔してんの。俺お前のこと知らないけど。
とか動揺していると、青年が声を上げた。ずっと練習していたのだろうか、少しかすれた声だった。
「すんません、ちょっと聴いてってもらえませんか!」
あーさわやか。良いね大学生。青春だね。でも俺は暇じゃないんだよお前の青春の一ページになんか協力してやるかフ●ック。なんてことは言わずに、俺は愛想悪く首を横に振った。
「わりーね。急いでんだ」
そのまま通り過ぎようとする、と、青年はさっきとは打って変わってこの世の終わり、みたいな顔でこの世の終わり、みたいな調子で言う。
「そうですよね…誰も俺の歌になんて興味ないですよね…変なこと言ってすみませんでした。忘れてください」
ええええ怖いよこの人多重人格?歌の試聴断っただけでこんな顔する人類初めて見た。あ、でも俺公園で歌の練習してる人類も初めて見た。それに歌聴いてってくださいなんてこと言われたのも初めてだ。何だそれなら別に不思議なことはねーやだって全部初めてだもん。とか思考がちょっとずれたせいでぼんやり立ちっぱなしだった俺を見て、青年は何か素敵な勘違いを引き起こしたらしい。
「ありがとうございます!」
え?
嬉々として俺を公園内に引っ張り込む青年を見ながら舌打ち。
初めてだもん。じゃねーよ処女かなんかのつもりか俺の馬鹿野郎。