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□STORY MAKER(3)
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 □ scene3「男気ないというのもある意味幸福なことである」


コンビニにて。コーヒー飲みてえかも、とか思いながら店内を物色。コンビニの片隅にあるDVDコーナーはそこそこ好きだ。意外と見たかったディスクが見付かることとかあるし。ちょっとした退屈しのぎになる。

俺の他に客はいない様子。店員も奥に引っ込んでるのかフロアには俺一人だ。やったねオンリーワン、とかくだらない喜びとブラックコーヒーを持ってレジへ。出てきた店員に赤マルをくれと要求。

店員は、俺がレジに置いた缶コーヒーと自分が持ってきたタバコを見つめ、それから俺のことを遠慮がちに眺める。なんかすげー嫌な予感がする。

「あのう、違ったら大変申し訳ないのですが、ひょっとしてストーリーメーカーさんじゃないですか?」

出た。一日に三回もこんな目に合う俺ってある意味超絶ラッキーなのかも。

無言で千円札を突き出す。この沈黙をNOだと受け取ったらしい店員は、小さな声ですみませんと謝ってからレジをうった。商品を受け取ってから店を出ようとしたとき、家で待っている左右のことが頭に浮かんだ。店員はまだ遠慮がちに俺のことを見ている。

舌打ちして、開いた自動ドアに回れ右をして、急に振り向いた俺と目が合って挙動不審な動きをした店員に一言。

「そうだけど」

おどおどしていた店員はそれを聞くと顔を輝かせ、廃棄で良ければ何か食べるものを出すのでバックへどうぞ、と俺を促した。

こんな日もある。

家で待ってる左右のためにも何かめぼしいものをぶんどってから帰ってやる、とか謎の決意を胸に秘めて俺はバックへ向かった。

左右だって、普段は喰えないものを土産にして持って帰れば、遅くなったことで俺を責めたりはしないだろう。

店員はからあげ弁当とアンパンを無造作にひっつかむとどうぞ、と声をかけ、パイプ椅子を引っ張り出して俺に進めた。用意周到なことである。

じゃ、遠慮なくってことで。椅子に座ってアンパンの袋を開ける。それを遠慮がちに眺めていた店員は、思い出したように自分も椅子を持ってくると俺の目の前に腰掛けた。しばし、俺がアンパンを貪る音のみが響く。

俺がアンパンを食い終わっても、店員は何も言わずに自分の足元を見つめていた。

沈黙。

別に沈黙は苦じゃない。人によって話を切り出すタイミングは違うし。急かしてしまえば話の順番が変わってしまったり大事なことを言いそびれてしまうし。何度も言うけど、タイミングが重要なのだ。

ただしこの場合は違った。彼はタイミングをはかっているわけではなく、俺から何か聞いてくれるのを待っている。そこまでお人好しじゃねーけど、なんて悪態をつくには遅すぎる。ここまで来たのは自分の意志だし。帰ろうと思えば帰れたんだから。

オーケイ、お付き合いしてあげましょう。




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