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□STORY MAKER(4)
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 □ scene4「個性的であるのは幸福なことである」



家に帰ると、帰宅が遅いことと腹が減ったこととで左右に吠えたてられた。
戦利品のからあげ弁当を献上するも彼の機嫌は良くならず、散歩へ連れていけという要求を飲まざるを得なかった。

仕方ない。だって左右は俺の相棒なのだ。

寝不足の目に太陽光が痛い。もはや殺意にすら感じる紫外線を全身に浴びて、左右のリードを左手に、足を引きずって歩く。

もうそんな時間なのか、出勤するスーツの社会人や学生服の少年少女がちらほらと見える。大変だねえみんな、朝からご苦労様です。

散歩が終わったら帰って即行寝てやるという決意は固いけど、いつもの散歩コースの三分の一で挫けた。

「ごめん左右、ちょっと休憩」

駅前の公園にて、本日何回目になるかもわからない笑顔のアニマルズを正面に、昨日の雨で少し湿ったままのベンチに座り込む。
ケツが濡れるとか俺は何回この近辺を往復してるんだとか、そういう思考は脳内の隅っこに蹴り飛ばしておくことにした。

疲れ切った様子の俺に少し哀れみを覚えたのか、左右は仕方がないといった様子でベンチ付近の地面の匂いを嗅ぎ始める。
リードはベンチの足元に繋いでおくからさ、しばらく一人で遊んでてくれよ。

とりあえず缶コーヒー、左右をそのままに自販機でブラックを購入。
寝不足の体に染み渡るカフェインで胃が痛む。知らんぷりを決め込んで、その空き缶を灰皿にタバコに火を点けた。

胃を痛めつけた後は肺を痛めつけるってか。マゾか。馬鹿か。

あ、ちょっと疲れてるかも何か今すっごい面白い。だって今の自分を客観的に見たらきっと凄く笑える。
いよいよ様子のおかしくなってきた俺を左右が不安気に見上げる。
大丈夫だよ、ちょっと寝不足でイレギュラーなことが続いて自分でも混乱してるだけだから。
心配ない、という合図でひらひらと手を振る。左右は安心したように地面の探索を続ける。

穏やかな朝だ。反吐が出る。

そろそろ行こうかとタバコを空き缶に放り込んだ時、左右がぴくりと動きを止めて一方をじっと見つめた。

えー、何か嫌な予感がする。




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