mini2

□茜空
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 春を待つ胸が苦しいのだ。

 君がいた茜空は、何よりも輝いて見えた。空だけじゃない、何もかもが、世界が、輝いて見えた。

 人間が嫌いだと嘯いた僕に、君はいたずらっ子のような瞳で笑った。きらきら輝く瞳で。

 人間が嫌いだった。通り過ぎて行ってしまうだけの人の群が、あざ笑うように聞こえる人々の声が、まるで値踏みされているかのような視線が、大嫌いだった。
 君のように澄んだ瞳をした人間を見るまでは。心の底から素直に、綺麗だと思った。

 さよならを、僕らは言わなくちゃ。

 君の隣は居心地が良かった。暖かくて満たされていて、世界が美しく見えて。呼吸が楽だった。

 愛してしまうことが怖かった。君のきらきらした瞳に、僕がどう写るのか、知るのが怖かった。

 君は言った。
 子供の頃は月だって行けたし、空だって飛べたのにね、と。
 その笑顔は、何かの崩壊を示していた。

 人間が嫌いだと遠ざけた。
 それでも君はやって来た。

 僕の心の一番奥まで、君はやって来た。通り過ぎるでもなく、あざ笑うでもなく、値踏みするでもなく、まっすぐ光で照らすように君は現れた。暖かいと、素直に感じた。

 愛してしまうのが怖かった。人間を好きになるのが怖かった。

 君は言った。
 桜が見たいね、花びらがまるで祝福するようにひらひら舞い落ちてくるのが良いね、と。
 その言葉は、微かにふるえていた。

 人間が嫌いだと言った。
 本当は僕が嫌いだった。

 君が見たいと言った桜をひとりで見上げる。まるで盲目になったかのように、世界は色を失った。

 愛してしまった、それが、罪だった。

 さよならを僕らは言わなくちゃ。
 それだけで、解るはずだ。

 色彩を欠いた世界で夕焼けを見つめる。君という窓がなければ、僕には何も見えない。
 失ってしまった痛みが罰になるのなら、僕はそれを甘んじて受け入れる。

 人間が嫌いだった。
 君のことを愛していた。

 窓のないこの世界で、僕は、何度も、何度でも春を待つ。

 君の笑顔を夢に見ながら。






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