好きだと言えなかった。それだけだった。
夏のうだるような気温の中、ぼんやりとあの日々を思い出す。あの頃も暑かった。ひまわりを見に行った。散歩をした。たわいもない会話が、何よりも楽しかった。
好きだと言えなかった。言えないくらい好きだった。
声が聞きたいと思う。今更、何を虫の良いことを、なんて自分で思いながら古い携帯の履歴を漁る。見つけてしまった番号に、指と思考が止まった。
好きだと言えなかった。言ったら終わってしまう気がしていた。
会いたいと思う。今何をしているのかと思う。他に好きな人が出来たのかと思う。そうだったら嬉しいけど悲しいと思う。
好きだと言えなかった。わたしには勿体無い人だった。
せめて、わたしの最期の日には声が聞きたい。終わってしまった恋を、綺麗なまま大事にとっておきたくて。
伝わらないように必死に隠していた思いが、火花のようにわたしを焦がす。
もう一度だけ、心の底から、そう願った。