mini2

□宵闇
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 ベランダでタバコを吸っていた。わたしの家は一軒家だけれど、わたしの他は誰もタバコを吸わないので、必然的に室内は禁煙なのだ。

 多分夜の9時だったと思う。わたしは基本的に1時間に1本のペースでタバコを吸う。いつもは時間を確認するのだけれど、その時は確認しなかった。きっと本能的に体がニコチンを求めて吸いに出たんだと思う。

 わたしの部屋のベランダは公共のグラウンドに面している。休日の昼間などには、子供たちがサッカーや野球をしに来たり、老人たちがゲートボールをしに来たりする。

 しかしその時は時刻も時刻で、暗闇だけがグラウンドを覆っていた。グラウンドを照らしていたのは、道路の向こうにある安っぽいスナックの看板や車のヘッドライト、申し訳程度についた街灯だけだった。

 ぼんやりと煙を吸い込みながら、何ともなしにグラウンドに目をやると、それらの光に照らされた何か黒い、真っ黒い塊が目に付いた。

 暗闇だったし、わたしはそんなに視力の良い人間ではないから、その塊が何なのかはっきりとは解らなかった。

 ただ、本能的に、直感的に、それは黒猫だと思った。もちろん根拠はない。ただわたしがそう思い込んだだけだ。

 わたしが煙を吸い込む間、その塊はぴくりとも動かなかった。ぼんやりと、死んでいるのか、とか、眠っているだけだとか、見間違いなんじゃないかとか、色んなことを考える。わたしがタバコを吸い終えても、塊は動かなかった。

 明日の朝になれば解ることだ。たいして重要な問題でもない。そんな塊のことよりも、本当はわたしはもっとやらなくてはならないことが山積みなのだ。いつまでも先延ばしには出来ない問題ばかりだ。

 やれやれ、とわたしは首を振って室内に戻って部屋の電機を消した。






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