mini2

□ポップミュージック
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「拝啓あれから何日もたっていない今日この頃ですが如何お過ごしでしょうか。
日に日に増していく暑さにうんざりして、太陽沈めファ●クと口汚く罵っている私は特に変わりはありません。」

話したいことはたくさんあるけど、同じくらい話さないと決めたことがある。
相変わらず中途半端なことを考えてふらふらと生きている。
夏の暑さはいつまでたっても苦手なままだ。

今から来てくれないかな、一人じゃきまずいから。と頼まれてやって来た小さなライブハウスでは、今正に世界の中心は俺!って感じの若者がぎゅいんぎゅいんギターをかき鳴らしながらマイクに向かって何やら怒鳴っている。
隣の友人Aはノリノリでたまにリズムを刻みながらそれを聴いてる。
一人じゃきまずいなんて言ってるけどお前それ全然ノレてるやつだからね、むしろ私の方がきまずいからね、という言葉は、腹に響くドラムの轟音にかき消されて届くことなく空間に消えた。畜生面白くない。

ぼんやりと、この空間になじめないままステージを見つめる。
マイクに向かって怒鳴り散らすヴォーカル、髪の毛振り乱して必死なギター、すべての音をかき消すかのように爆音をたたき出すドラム、ソイツらと比べるといくらか涼しそうな顔のベース。みんなそんなに必死になっちゃってさあ、何を訴えかけてるわけ?申し訳ないけど、お前が必死になって叫んでる声、楽器の音に消されちゃって聴き取れないよ。

自己陶酔しちゃってまるで宗教だなーなんて思って、これを聴いてる奴らは信者なんだなーって思って、でもこのうるさいだけの空間で帰りもせずにこんなこと考えて突っ立ってるだけの自分も同じだって思って、つまりはよくわかんねーなってことです、はい。

ところどころ聴き取れる、枯れかけている声。
過去は過去だから美しいとか、思い出すと綺麗なことばっかりとか、もう戻れない、2度と返ってこないからこそ綺麗なのにとか、そんな台詞。もう何回歌われたかもわからない、誰の胸にでも響くように創られたチープな台詞。
それに合わせて叫んだり、挙句の果てには感極まって泣いちゃう子がいるだなんて!
どうやらポップミュージック教ってのは恐ろしいもんらしい。

けど、あの頃を思うと胸が痛むよとか、愛してるだとかあなただけだとか、そんなチープな台詞にノックアウトされて何か泣きそうとか思っちゃう私も、こいつらに負けず劣らずポップミュージック信者。重症。
でもさ、いっこだけ正論言わせて。
誰にでも優しいってある意味一番残酷なことだと思う。

ここまできたらもう笑っとくしかないでしょう!今度の声は聞こえたらしい、隣でリズムを刻んでいた友人Aは、こっちを見て不思議そうにちょっと首をかしげてた。

「時間がすべてを解決してくれると信じて日々を生きています。どんなことも風化してしまう、その事実に今は救われて生きています。
手紙の締めくくり方なんてわからないのでテキトウに書き殴りますが、この手紙は投函せずに燃やします。届くはずのない紙切れに思いを綴ってそれを燃やす、どうでしょう、中々にポップな生き方を出来ていると思いませんか?

あなたの幸せを願っています。なるべく、ポップミュージックみたいにチープではないものが手に入りますように。
それでは。草々

追伸、新しい宗教に入信しましたかっこ笑いかっこ閉じ」





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