mini2

□ソロ・ステージ
1ページ/1ページ




僕のことどんなやつだと思ってる?


いつものように、なんて格好良い言い方はしない、正直に言えば久しぶりなんだ。すごく緊張してる。
ストラップを首にかけて、相棒を手に取る。これは久しぶりじゃない。練習なら毎日してたよ。

音合わせをして、さあ、演奏開始。

僕はジャズが好きだ。店内の暗い感じとかタバコの煙とか、みんな好き勝手に酒を飲んだり喋ってる感じとか。好きと上手は違うって?わかってるよそれくらい。

僕のサックスは情けない音がするんだって。テナーはセクシーなんだから、もう少し格好良く吹けばって。これは君に言われた台詞なんだけど、覚えてる?

君は僕に手厳しいことばかり言うくせに、僕のライブには必ず来る。

ソロには性格が出ると思う。だって僕がソロで吹いてると、君は酷くつまらなさそうな顔をするから。そんな顔されると指が動かなくなりそうで困る。

いつだか、夜の公園でひたすらにアドリブの練習をする僕を見て君は言った。優しいだけじゃ駄目なんだよって。かじかんだせいなのか、はたまた君のその言葉のせいか、あの時僕の指は動かなくなった。

最後まで聴いてないからわかんないと思うけどさ、これ、あの時練習してたアドリブなんだよ、君に聴かせたいから必死に楽譜書いて練習したんだ。内緒だけど。

優しいってどういうことか僕にはいまいちわからない。僕は僕なりの生き方をしてるだけ。
どんな人にだって意思があって大切に思う人がいて大切に思ってくれる人がいる、そう考えるだけで、いや、その事実を知ったことで、僕は人に強くでられなくなった。

臆病者って笑う?それとも、拒絶することも大切な優しさだって言う?耳にタコができるくらい聞いたよ。

僕の音はこれから先も変わらない。そんなにつまらなさそうな顔するんなら来なきゃ良いのに!僕はそれを引き止めない。
君はそれがわかってるから、毎回そんな顔してまで来るんだろうけど。それぐらいはわかってる。

君の自由意志だよ、僕に決定権はない。
君は僕のこういう人任せなところが気に食わないと言う。僕は君の気に入らないものは気に入らないとはっきり言うところが格好良いと思う。僕もそんなふうになりたいとは思わないけど。

あと、君が僕に文句ばかり言うくせに僕から離れようとしないところはとっても可愛いと思う。ありがたいとも。

いつもありがとう、こんな人間でごめんね。



ラストは君の好きなMr.P.C.
この選曲は僕がした。
一応、君のために、って思いを込めて演奏したけど、やっぱり君は退屈そうな顔をしてた。





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ