してん

□ブラックホールとこんにちは
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嘘やろ。呟きながら目の前におる白石を見つめると、彼は相変わらず笑っとった。何故笑っていられるんかと問いたかったけど、そないなことよりも、今、彼の口から吐き出された言葉についてたずねたかった。いや。むしろ、もう聞きたくなかった。四天宝寺中学校。転校。さよなら。彼の唇が動くたびにその音を単語として、そして文章として脳が処理をしていく。それを理解したとき、俺は笑う暇も、怒る暇さえもなかったんや。ただただ白石の発した言葉の意味を否定するんで精一杯やった。理解出来ないんやない。認めたくなかったんや。黙っとる俺に白石は呆れたんか、ため息を吐いた。それから言うんや。


「やからこれで、自分とはお別れや」
「……うそ、やろ?そんな、いつもの冗談やろ。でも、転校なんてネタ、いくら部長の白石でも質が悪い冗談や。むしろ、悪すぎやせんか」
「冗談なんかやあらへん」
「ええ加減にせえ。転校なん、そないな冗談、いくら白石でも俺…」


怒るで。本来ならその言葉が俺の口から出てくるはずやった。やけどその言葉は、目の前の彼によって遮られたんや。


「いくら自分でも、怒るか?それでも、いくら自分が怒っても、残念ながら冗談やない。きちんと理解してもらえるように、もう一度言ったるわ」


彼は息を吸った。止めろ、嘘や、お願いや。ありきたりな言葉しか並べられん自分に嫌気がさした。それでも、ありきたりな言葉でさえも、願いたかったんや。やけど、彼は静かに言った。


「転校や」


やから自分とも、お別れや。言葉の意味を理解して、拒絶したくてたまらんくて、それでも出来んくて、自分がどないすればええんかとか、なんて喋ればええんかとか、はたして白石の言った言葉はほんまに正しいものなんかとか、色々ぐちゃぐちゃになって、頭の中でさえも、真っ白なんて綺麗な色をしてへんで、ひたすら黒やら、緑やら、赤やら、黄色やら、名前の分からん色やらが脳内に広がっていった。ただただ混乱しとった。そして、ただただ泣いとった。やって、好きやったから。ダブルスのためにずっと小春が好きなふりしとったけど、ほんまに見てたんは白石やから。でも、なんとなく、白石は謙也が好きなんやってわかっとったから。困らせたくなくて、困らせたくなくて。ずっと、隠しとった。表情を見られたくなくて下を向いとると、白石は言うんや。


「顔上げえ」
「…いやや」
「上げえ。部長命令やで」
「白石は、もう居なくなるんやろ。部長もクソも、あるかっちゅー話や」


吐き捨てるように言うと彼は呆れたようにため息を吐いた。一人にしてや。そう言おうか迷ったとき、白石が顔を覗き込んできた。何や。問いたかった言葉が出んかった。軽く唇を押し付けられ、そして離れた時、彼は笑っとった。


「俺、ずっとお前に言いたいことがあったんやけど…今度また会えた時までとっとくわ。……お願いやから、小春と喧嘩とかせんでな?俺のために」


白石が笑っとる。


「さいなら、またいつか」


ああ、ほんまに酷い人やと思った。別れ際にこないな酷いことをする人はおるんやろか。お前がさいならと言って、またいつかと言って、会える保障なんて、一体どこにあるん。このまま別れを告げていれば、普通にさいならと言っていれば、もしかして忘れることやって可能やったのかもしれないんに、どないして最後に、お前は。


「卑怯や、最、低や」


堪えることが出来ず、みっともない姿で泣きながらそう言うと、彼は最後に笑った。


「それが俺やから」


なんて、笑顔で口にするお前は、ほんまに。












初めまして、リクエストありがとうございます。私はミチさんのコメントに胸きゅんです。おかげさまで5000HITまでいきましたよ!切ないものを目指したら非恋になってしまいました。気に入らなければ書き直しますので言ってください><ありがとうございました!







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