カメリア

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チャンピオンであるヤタナさんが、一昨日、挑戦者とのバトルの際に負傷したとの情報が―――

「大げさだよ。怪我なんかしてないし、いたって健康だって医者も言ってたでしょ?」

病室に見舞いに来たグリーンとレッドに向かってそう話す。
事情は聴いているのだろう、呆れた顔でグリーンは口を開く。

「いきなりぶっ倒れやがって。おいレッド、お前もなんか言えよ」

「…何を?」

「何をってお前なぁ。大丈夫かとか」

「必要ない。見ればわかる」

「お前、なに怒ってんだよ?」

無表情、そして無口なレッドの変化にグリーンはいち早く気が付いた。

わずかな声色の変化、眉間の皺。

「怒ってない」

「嘘つけ。俺には分かるぞ。お前、今すっげえ不機嫌だ」

「うるさい」

「ほら怒ってるじゃねえか。あれだろ?大方、バトルの勝敗が決まらなかったから…」

「…黙れ」

低いどすの効いた声。
怒っている。あの彼が怒っている。

怒りの矛先はもちろんグリーン。
それでも関係ないあたしまで怒られている気分。ああ、怖い。

室内の温度が下がってゆく。
何とかしろグリーン。あんたが火に油注いだんだから。

恨めしい視線をグリーンに送れば、首を振られる。もちろん横に。

目だけの会話がしばらく続き、ふと結月から念が送られてきた。

怒りと悔しさ。

レッドの今の感情だろう。
グリーンの言った通り、勝敗はついていない。砂煙が晴れた際あたしが気絶したからだ。

「ねえ、レッド」

「…何」

「ごめんね。せっかく楽しいバトルだったのに、最後までできなくて」

「……」

眉がいっそう近づく。
レッドは帽子の鍔を下げ、表情を隠した。

「ついてたよ。勝負」

「え?」

あのバトルは、チャンピオンが倒れたという事で無かったことになり、改めて行うことになった。
だから勝敗なんかないはずなのに。

「ヤタナは、勝ったよ」

ドアに手をかけて、レッドは言い放った。
そのまま何も言わずに出ていく。

バトルの最後の方は、よく覚えていない。
五分五分だった。なのにあたしが勝っていた?

一瞬見えた彼の表情が、脳裏に焼き付いた。


















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