番外編

□How do you!
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“おたんじょうびおめでとうヤタナちゃん”

大きなホールケーキの真ん中にあるチョコレートのプレートのうえには、祝いの言葉とあたしの名前が白く書かれていた

白と赤の間に、色とりどりの蝋燭が10本刺さっており、それぞれが火を灯している
頬に空気を精一杯溜めて、唇を尖らせた

ふうう、と音を出しながら息を出し、蝋燭の火を一気に消そうとしたが、消えたのは手前の3つだけで、残り7つは微動だにせず、オレンジ色をゆらゆらと揺らしている

2、3回同じ行為を繰り返して、ようやく火がきえた

「誕生日おめでとう、ヤタナ」

そう言って微笑む3人の顔を見て、少し照れくさそうに笑う

9月30日
この日、あたしは10歳になった

この家に来てから、もう1年
それまで親戚中を転々としていたため、こんな風に祝って貰えるとは思ってもいなかった

親戚でもない、何の繋がりもないあたしを引き取り、家族として受け入れてくれたこの人達には、心から感謝している
最初こそ戸惑ったが、今では彼等を「お父さん」「お母さん」「兄さん」と言えるし、本当の家族として接している

切り分けられたケーキ
勿論、あたしに渡された物には、主役の特権とも言える、チョコレートのプレートが乗せられている

ケーキの先をフォークで口に運べば、生クリームの程よい甘さと、苺の甘酸っぱさと香りが、口に広がった

「ヤタナも10歳なら、自分のポケモンを持てるね。最初のポケモンは何がいい?」

「イーブイ!あたし、イーブイがいい!!」

前にテレビに入っていた、イーブイ特集で、あたしはすっかりイーブイの虜になっていた
歩く度に揺れる大きな尻尾に、見るものを魅力する愛らしい顔立ち

今まで考えていた、最初に手にするポケモンのいくつかの候補を蹴り飛ばし、あたしの脳内には、イーブイという1つの選択肢しか無くなった

お母さんの質問に間髪を入れずに答えれば、両親は笑いだす

何か可笑しな事でも言っただろうか
きょとんと2人を見れば、お父さんは兄さんの方を見て

「ワタルの言った通りだな」

と言った

話の意図が掴めずに、困惑していれば、2人はさらに笑い、お母さんが兄さんに「ワタルが渡してあげて」と何かを手渡した

何をくれるのだろう

期待に胸を膨らませて、兄さんの手の内を見つめる


「ヤタナ、誕生日プレゼントだ」

目の前で開かれた手のひらには、赤と白のボールがあった

開けてごらん
その言葉で、そのボールには、何かのポケモンが入っている事がわかり、ありがとうとお礼をいってから、それを受け取った

小さく息を吐いて、慣れない手つきでボールを空中へ投げる
すると赤と白が別れ、中から出た赤い光が、小さな四肢の身体を作った

出てきたのは、自分がさっき言っていたポケモンで
その子は、テレビで聞いた声と同じ声で、あたしに鳴いた









How do you!


(それが結月との出会い)















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