番外編
□私と主人
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こんにちは。ミロカロスの美澄です。
今日、ヤタナはハナダジムに来ています。そこのジムリーダーのカスミさんとお話があるらしく、私は待っている間、ジムにある大きなプールで泳いで待っています。
皆と違って、私はボールから出られる場所は少ないので、貴重な時間なんです。
プールにはカスミさんのポケモン達も自由に泳いでいます。最初は楽しんでいた結月も、今はヤタナの足元でお昼寝中。
それを少しうらやましく思い、水中へと潜ります。物足りなさを感じながら、くるくると壁に沿って泳いでいくと、カスミさんのミロカロスが近寄ってきます。
一緒に泳いでいると、彼女が水面へ行くので、私もついていきました。
「――あんたもいい加減、彼氏くらいつくったらどうなの?」
「冗談やめてよ。そんなのいらない」
「でも、その若さでワーカホリックなんて、笑えないわ。ずっとそのままでいるつもりなの?あんた元はいいんだから…そうね、身近なところでグリーンとか」
「カスミ。幼馴染の恋愛なんかリアルではありえないから。それに、グリーンはいま相手いるよ」
「え!なによそれ!誰!?」
「元はグリーンのファンだったみたい。ジムに行くためにバッジ全部集めて……」
「……もしかして、手持ちにラッキーがいる?」
何故かこそこそと話し出す2人の会話は次第に聞き取れなくなり、諦めてまた水中へ。
音のない世界。ボールよりも落ち着くこの空間が好きだった。
ヒンバスだったころ、群れから逸れてしまい、他のポケモンたちに襲われていたあの時。
空腹で飢えていた私の目の前にあった餌を思わず口にした。瞬間、水面へひきあげられ、見えたのは子供数人。
罵声を浴びせられ、何とか川に帰ろうとするが、それさえも阻止され、暴行を受けた。
もうだめだ。
諦めかけていた私を助けてくれたのは、エーフィを連れた少女。子供を追い払うと、私に手を伸ばしてきた。
人間に警戒心しか持っていない私は、残った力を振り絞り、その手を拒否した。
「ポケモンセンターに連れていくだけだから。大丈夫だから」
再び伸ばされた手を、また拒否する。
かかわるな。どこかへ行け。
私の声に、主人の後ろで見ているだけだったエーフィが前に出てきた。
ヤタナはあなたの傷を治そうとしているの。それが終わればすぐあなたをちゃんとかえすよ。
……本当に?
うん。
頷くエーフィを見て、身体から力を抜いた。
何かをエーフィが言って、少女がそっと私を抱き抱る。
その暖かさは、今まで体験したことのない物で。
水中よりも居心地の良さを感じていた事は、今でもみんなには内緒です。
私と主人
ボールに戻る前に、甘えてみよう。彼女はきっとまたぬくもりをくれる