番外編

□優しくて凛々しい子
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目の前には青い空。鼻孔からは潮の匂い。耳のすぐそばからは波の音。
太陽の暖かさと、海の抱擁力を感じながら、あたしは只々浮いていた。

季節外れだからか、この海水浴場には人がいない。貸切状態となったこの浜辺を、手持ちのポケモン達は自由に駆け回っている。
途中まで美澄に乗って、それなりに深さのある所まで来た。陸地は遠い。

焔はきっと、砂浜を走り回っているだろう。それに飽きたら、今度は勇李とじゃれあう。いつものパターンだ。勇李も、嫌そうにしながら、内心楽しんでいるはずだ。
結月は、日陰で寝ているかな。あの子は寝るのが好きだから。
そういえば、結月があたしの傍にいないなんて、不思議な感じ。

大きく息を吸い込む。溢れんばかりに溜め込み、海へ潜った。
どこまでも続いている青。それは深くなればなるほど濃くなっていく。
――あそこに行ってみたい。
どれだけ深いのだろう。どれぐらい行ったら、光が届かなくなるんだろう。深海でポケモン達はどんな生活をしているのだろう。
――知りたい。自分の目で見てみたい。
こぽこぽと、口から空気が逃げていく。進めば進むほど苦しい。

足場のない下を見ながら、水中で息の出来ない自分を呪った。
自然に浮いていく体。それを受け入れ、動かずにいると、美澄が来た。
心配そうにあたしを見て、大丈夫だと分かれば、下を見て、またあたしをみる。

美澄の「ダイビング」を使えば、水中でも息が出来るようになるし、難なく深海を堪能できるだろう。

でもあたしは、美澄に上へ行くよう合図した。美澄に掴まり、上へと進んだ。
顔を出す。息を吸い込む。重くなった体は、美澄にしがみ付くことで何とか沈まないでいれた。
風が冷たい。まだ海水の方が暖かかった。

日は傾いている。時刻は4時過ぎくらいだろうか。
陸へと向かう美澄を撫でながら、ふと思う。

此処は今の時期、確か野生のメノクラゲだらけじゃなかったか?
今も、潜っていた時も、夢中で気が付かなかったが、海で危険視されているポケモンは一切見なかった。

「美澄、もしかしてお前、メノクラゲ達を追い払ってくれたの?」

「自己再生」や「リフレッシュ」の使えるこの子なら、可能だろう。おまけにミロカロスの特性は「不思議な鱗」だ。異常状態になっても、ダメージは軽減される。

澄み渡る声で答える美澄はどこかすがすがしい。当然のことをしたまでだ。気にするな。そう言っているようだった。

――美澄先輩。あたし一生あなたについていくっす。









優しくて凛々しい子  

ヒンバスの頃は、あんなに気弱な子だったのにね









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