カナリア

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あれから何日が経ったのだろう

カーテンの隙間から溢れる光から、朝が来たのはわかった

このところ何も口にしてないが、不思議な事に、腹は空かない
ただ、水分もとっていない為、口内が干からびている

ドアの向こうでヒビキがオレを呼んだ
返事だけでもしたいが、出てくるのは乾いた、声にならない音だった

返事が無いため、ヒビキは自分の部屋に戻ったようだ

「………ごめんな、こんな兄ちゃんで」

喉からなんとか絞りだりた声は、驚くほど枯れていて、弱々しかった

情けなさから、はぁとため息をすると、機械音が規則的なメロディーを奏でた
音の出所は机に放置したポケギア
重い身体を起こし、ポケギアを手に取れば、画面には幼馴染みの名前が表示された

電話に出るべきかどうか悩んでいれば、プツリと音が切れ、室内は静かになるが、再び鳴り出すポケギア

どうやらコトネはオレが出るまで止めないらしい

意を決して通話ボタンを押す

「…なんだよ」

〔あ、出た〕

その声はコトネの声では無かった
慌てて画面を見れば、確かにコトネと読める
いったいどうしてこいつが電話を?
今さら何の用だ?
コトネかヒビキからオレの状態を聞いてバカにする気か?

最初に感じた驚きは、いまや怒りと憎しみに変わっていた

「……なんの用ですか、ヤタナサン」

〔…あなた、本当にバトル好きなの?〕

そいつの第一声は、挨拶でも謝罪でもなければ罵声でもなく、シンプルな問いかけだった

バトルが好きか
以前のオレなら、即答で肯定しただろう

だが今は違う

「今は…嫌いっすよ」

〔あたしに負けたから?〕

「…オレにとって、相棒達は誇りだったんだよ」

負けた事がなかった
オレの期待に絶対に応えてくれた
大切な相棒達

〔その誇りを取り戻そうとはしないの?〕

「…」

〔呆れた。あなた自分の事しか考えられないのね。負けて悔しいのはあなただけなの?自分のポケモンの事を、どうして見てあげないの〕

「もしかして、説教の為に電話したんすか」

〔いいえ。あたしも言い過ぎたし謝ろうかと思ったけど、やめた〕

ギア越しの声が少し低くなる

〔あなたのポケモン、今何してるかわかる?〕

答えはNOだ
一応ボールは母さんに預けてるが、ポケモン達が何をしているかまではわからない

〔外、見てみな〕

「外?」


疑問に思いながら、カーテンを捲ると、見慣れたワカバタウンの風景がそこにはあった

ふと、隣にあるウツギ博士の研究所の裏が目に入る

そこは、結構広い広場になっていて、研究所のポケモン達がのびのびと遊んでいた
その広場の端に、ヒビキやコトネ、そしてヤタナサンが見え、ヒビキはどうやらバトルをしているらしく、マリルに指示を出していた

目を凝らして対戦相手を見、声を失う
なぜなら、バトルの相手はバクフーンだったからだ

〔負けて悔しいのは、あなただけじゃない。あなたのバクフーンは、きっとあなた以上に悔しかったはず。でも、この子は、あたしに勝とうと、努力してる〕

「バクフーン…」

〔あなたのポケモンがこんなに頑張ってるのに、トレーナーのあなたが頑張らないでどうするの〕

マリルの波乗りが、バクフーンを襲っている

なんとか避けたが、タイミングがずれてしまったらしく、多少ダメージを食らったみたいだ

それを見た瞬間、オレはポケギアの通話を切り、部屋を出ていた

向かうは、相棒の所だ










 

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