カナリア
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目の前で行われているバトルは、オレらの知っているバトルとはかけ離れていた
チャンピオン対トキワジムリーダー
ヤタナサンの実力は、まあ、実際にバトルをしたからわかるが、本気を出したグリーン先輩はどんなものだろうか
短期間だけチャンピオンとなり、その強さからトキワのジムリーダーに推薦されたらしいが、本気のグリーン先輩を見た人は本当に少ない
その2人のガチンコバトルとなれば、見るしかないだろう
そんなわけで、オレとヒビキ、コトネにシルバーの4人は初めのうちは心を踊らせていたが、バトルが始まってすぐ、猛烈に帰りたい気持ちになっていた
バトルはトキワジムの中ではなく、ジムの裏で行われている
バトルが始まる前は、緑に広がっていたこの場所も、自分達の周り以外は焼け野原と化していた
隣に座るヒビキは、オレの服を掴み小さく震え、シルバーは顔を真っ青にさせていたが、目を離さずにバトルを見つめ、コトネは、「危ないから」とヤタナサンの命令で“まもる”をしているエーフィを撫でたり抱きついたりしてる
ていうか“まもる”ってこんなに長く持つものだったか?
コトネに弄られながらも集中が切れていないエーフィを見て、少し恐ろしく感じた
このバトルが始まったのは、偶然が重なりあった結果だ
「ヤタナさんとグリーンさんのバトルって、面白そうですよね」
ヒビキとの買い物中に、ヤタナサン達と会い、話していると、何気なくヒビキが放った言葉
「そういえば、もう暫くバトルしてないね」
「久々にするか、バトル」
2人が場所やルールを決めている間に、折角だし、とコトネとシルバーも呼び、バトルを見学した
そして今に至る
グリーン先輩のギャラドスが繰り出すハイドロポンプがヤタナサンのウインディを狙うが、しんそくでかわされ、行き場を失った水は破壊音をたてて地面に激突
地面は抉れ、その光景はハイドロポンプの凄まじい威力を物語っていた
もし、あれがポケモンに当たっていたら…いや、考えないでおこう
「竜の波動!」
「火炎放射!」
同時に2匹から放たれた技が相殺され、中規模爆発が起こり、辺りは煙に包まれる
エーフィの技で守られているため、その煙によって噎せる事は無かったが、視界が悪く、どうなっているのかはわからない
だが、何かが倒れる音もボールの開閉音もしなかったということは、両者とも戦闘不能にはならなかったのだろう
静寂が辺りを包む
「―――ワイルドボルト!」
煙が晴れ、先に静寂を破ったのはヤタナサンだった
電気をその身に纏ったウインディが、ギャラドスに向かっていき、なすすべがなくギャラドスは倒れ、ウインディも攻撃の反動に耐えられず、地面に重い音を出して倒れた
「お疲れ様、焔。ありがとね」
「ギャラドス、ゆっくり休んでくれ」
倒れた2匹はそれぞれのボールに戻される
やっと一回戦が終わり、ほっとしたのもつかの間、コトネに抱かれていたエーフィの額が赤く光り、技を解除すると、ヤタナサンの元へと走っていった
えっ、ちょっと待て
お前がいなくなったら、オレ達死ぬじゃねぇか
母さん、親孝行出来なくてごめんな
そんな思考を繰り広げていれば、それを感じ取ったエーフィが、ヤタナサンに鳴き、訴えた
ヤタナサンはこっちを見、コトネ以外が真っ青になっている事に気がつき、それから辺りの惨状を見渡すと、苦笑いを浮かべる
いやいや、苦笑いで済むようなもんじゃないぜ!?
なに「またやっちゃったー」みたいな顔してんだよ
「…次でラストだけど、どうする?避難する?」
「わたしは最後まで見学しまーす!」
「…オレも見てます」
「ぼ、ボクも見ます」
「マジかよヒビキ!正気か!?」
「うん。結構勉強になるし…お兄ちゃんも見ようよ」
「…しゃーねぇな」
そんな顔でお願いされたら断れねぇだろうが
立ち上がろうとしていた体を下ろし、座ると、ヤタナサンはボールをこちらに投げた
出てきたのはミロカロスとルカリオ
「美澄、ミラーコートで守ってあげて。勇李は波動弾で相殺してね。あと、危険だと判断したらみんなを退却させてちょうだい」
指示通りに、ミロカロスはミラーコートを作り出す
ルカリオは腕を組み、不愉快そうに顔を背けた
随分偉そうなルカリオだ
本来ルカリオは主人にとても忠実な種族のはずなのだが、このルカリオは見る限りそうは見えない
すると、ギロリと睨まれた
流石は波動ポケモン
考えていることが丸分かりらしい
「頼んだぞ、ブラッキー」
グリーン先輩はブラッキーでヤタナサンはエーフィ
相性は悪いが、あの人は相性なんか関係ないバトルをする
果たしてどっちが勝つのだろう
というかグリーン先輩、ブラッキーを持っていたのか
ジム戦では見なかったって事は個人的な手持ちなんだな
ふいに腰のボールが揺れた
目の位置にもってくると、そいつはじっと訴えかけてくる
「…よく見とけよ、ブラッキー」
自分が負けたポケモンが、自分と同じポケモンと戦うのだから、気になるのだろう
ブラッキーの要望に答え、ボールから出せば、その紅い眼は目の前の2匹を真剣に見つめた
「シグナルビーム!」
「ブラッキー、かわしてシャドーボールだ!」
エーフィの額の紅玉から出されたシグナルビームを、ブラッキーは軽々とかわし、お返しだと言わんばかりに、シャドーボールをエーフィへと繰り出した
「サイコキネシスでブラッキーに返して!」
エーフィへ向かっていたシャドーボールは赤い光に包まれ軌道を変える
そのまま弾丸の様な勢いで、ブラッキーへぶつけられた
「シグナルビーム!」
ここぞとばかりにヤタナサンはエーフィに攻撃の指示を出す
ブラッキーは、さっきの攻撃の衝撃で動きが鈍く、かわすことが出来ず、シグナルビームが直撃した
効果は抜群だ
「ブラッキー!!」
攻撃は急所に当たったらしい
力なく倒れたブラッキーに、グリーン先輩は駆け寄り、何かを話してから、ボールへと戻した
「美澄、もういいよ。ありがとう。勇李もお疲れ様」
ミラーコートを解除したミロカロスにヤタナサンは手を伸ばし、その頭を撫でると、ミロカロスは甘えるようにヤタナサンの手に頬擦りをした
クールなポケモンかと思っていたが、結構甘えん坊らしい
「あーあ、派手にやらかしちまったな」
「まだマシな方でしょ」
「…これで、マシな方なんすか」
「建物内でやったら、ヤタナが燃やして火事になるんだよ」
バトルどころの話じゃ無くなるんだよな
はぁ、と大袈裟に肩を竦めるグリーン先輩に、ミロカロスとルカリオをボールに戻したヤタナサンは眉を潜める
「なに人のせいにしてんのさ。グリーンなんか初っぱなから屋根か壁か床に破壊光線じゃんか」
「お前こそ人のせいにするなよ」
「事実じゃない。最初に建物を壊すのはグリーンのほうだよ」
「いーや、お前だ」
「グリーンだよ!」
「お前だ!」
必死に罪を擦り付けているチャンピオンとジムリーダの姿に、本当にさっきまで争っていた2人なのだろうか、と疑いたくなった
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