カナリア
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信じられない。そんな筈はない。オレ達は最強なんだから
ブツブツとその言葉だけを繰り返す男の目は、焦点があっていない
最初の威勢のいい男は何処にいったのだろうか
ここに来る人の末路はいつも同じだ
初めはみんな、自信満々な態度でバトルを仕掛けるのに、バトルが終われば別人へと変わる
大抵は、あなぬけの紐を使って直ぐに帰るが、中には殴りかかってくる奴もいた
そういえば、「化け物」なんて言われた事もあったな
あれはいつの事だっただろうか
正確な月日も時間もわからないこの場所で、思い返すのは無謀な行為だ
早々と思考を止めれば、男は跡形も無く消えていた
今回も歯応えは無かったな
小さく息を吐けば、吐息は白く舞い、空から音も無く降ってくる雪と同化し、見えなくなった
―――――――
「ヤタナサン、“シロガネ山の赤い悪魔”って知ってます?」
ゴールドの言葉に、知らない、と短く返事をし、バトルの際にダメージを受けた結月に傷薬を使った
ゴールドは立ち直ってからというもの、毎日の様に挑戦をしに来ている
負けても、あの時の様に塞ぎ込むこともなく、「いつかぜってーギャフンと言わせてやる!」と、むしろ前向きに物事を捉えるようになっていた
あたし自身はギャフンと言う気は微塵も無いが、ゴールド本人はそれを目標としているらしい
現に、彼は少しずつ強くなってきている
最初は結月にダメージを与えられずにいたのに、今では攻撃が当たったり、与えるダメージも大きくなっている
短期間でのこの成長は、少しばかり驚いた
「最近広まった都市伝説なんすけど、なんか信憑性が高いんですよね」
「シロガネ山に血だらけなトレーナーでもさ迷ってるの?」
「違いますよ。シロガネ山の頂上に赤い服のトレーナーがいるらしいんすけど、それが滅茶苦茶強くて、そのトレーナーと戦った奴は、帰ってきたら必ず、悪魔に魂を取られたみたいになるみたいっすよ」
「あたしに負けたゴールドみたいに?」
「…あんた、オレの事嫌いだろ」
ゴールドが手に持っていた傷薬が嫌な音をたてた
「別に嫌いじゃないよ。…で?なんでその都市伝説が信憑性が高いのかしら?」
「昔、そのトレーナーを見たって人がけっこういるんですよね。なんでも印象が強いトレーナーらしかったっす。バトルは強いけど淡々としていて、常に無表情。赤い帽子と赤い服に赤い瞳で、肩にはピカチュウがいるとかなんとか」
ふと、頭をよぎったのはかつての友人
赤い帽子を被り、赤い服を好んで着ていて、感情をなかなか表に出さない、彼の顔が鮮明に脳内に現れた
心音が強く速くなっていく
「…名前、は…?」
「ヤタナサン?」
「その人の、名前はわからないの?」
「確か、“レッド”って名前だったはずっすけど。ヤタナサン?どうしたんすか?」
ゴールドの言葉が耳から入り、鼓膜を震えさせ、言葉となって認識すると、時間が止まった気がした
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