カナリア

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焔から放たれた炎が、地面に積もった雪を溶かした

あられが降る空から雷が落ちる
これは自然現象からくる雷ではなく、目の前のポケモンから繰り出された意図的に作られたものだった

間一髪で避ける事が出来たが、プスプスと音をたてて焦げた匂いを立ち込める地面を見て、自然と心音が早くなる

「(容赦ないな)」

カチカチと無意識に歯が鳴るくらいの寒さすら気にならなくなるバトル
寒いだろうから、と念には念を入れて着込んできた防寒具が、今では邪魔にすら思えた

シロガネ山の頂上に、人がいました

シルバーからの着信に出れば、彼は開口一番にそう言った
その声は淡々としていたが、どこか暗い雰囲気を纏っていて、それを気にかけたが、返ってきたのは「なんでもありません」の一言
その様子から、例のトレーナーと戦ったことが伺えた

お礼を言い、目の前にあった書類の山を急いで片付ける

1日…いや半日でいいから、彼と会う時間が欲しい
死ぬ気で終わらせ、久しぶりの休暇を潰してまで会いに来たのに、挨拶も無しにバトルが始まった

もしかして覚えていないのか?
まあ、小さい時だし覚えていなくても仕方ないか。グリーンが覚えていてくれたから、少し期待していたのだけど…

「神速!」

「影分身」

焔の技をかわしたピカチュウの分身が、焔を囲む
どれが本体か全くわからない。焦りを相手に悟られないよう平然を装いながら頭を働かせる

本当は、じっくり観察して本体を見つければかっこいいんだけど、そんな余裕は無い

「火炎放射で全部攻撃!」

「…アイアンテール」

分身ばかりが消えて、なかなか本体にたどり着かず、残り少なくなって、やっと出てきたピカチュウは、自身の尾を鋼へと変化させ、焔に攻撃をした

ダメージは少ないが、このままではきりがない

「…焔、本気でいくよ」

目を閉じて、今まで起こった事をリセットする

友人をようやく見つけた事で生まれた喜びを、友人だからという事で生まれた手加減を消す
このバトルを楽しむ必要が無い。否楽しめない

雰囲気の変わった主人を察した焔が、威嚇する。
それは、空気をも震わせる、低く重い、通常の威嚇とは比べ物にならないものだった

野生のポケモンなら、震えて逃げるのだが、流石はチャンピオンを倒した事のあるポケモン
小さく震えただけで、直ぐに態勢を整る
でももう遅い

「火炎放射」

威嚇で怯み、数秒だけ出来た隙をついた攻撃で、小さな体は炎に包まれた
溶けた雪から顔を出した地面へ力なく倒れたピカチュウは、立ち上がる動きを見せない。戦闘不能のようだ

「ねえレッド。あたしのこと、覚えてる?」

確認のため聞いてみたが、返事は無い

それなりに仲はよかったけれど、お互い、体つきも声も変わったし、わからないのも仕方がない

「……ヤタナ」

小さく呟かれたのはあたしの名前

「うん」

「……久しぶり」

「うん。久しぶり」

「強いんだね」

「そりゃあ一応チャンピオンだからね」

「…チャンピオン」

「ジムバッチを8個集めて、四天王に勝って、ワタル兄さんにも勝ってチャンピオンになったの。そのあとに、リーグにあったリーグ戦のビデオを見たよ。グリーンとレッドのリーグ戦」

すごい迫力のあるバトルだった。互いに一歩も譲らない、意地と意地とのぶつかり合い
ラストはレッドのピカチュウが、自慢の素早さを生かして勝利を手にした

そのバトルは歴代のどのバトルよりも凄かった

「それを見て思ったの。レッドを倒して、レッドよりも上にならなきゃ、本当にチャンピオンになったとはいえないんだって」

チャンピオンは誰よりも強くなければならない

かつてチャンピオンだった、ワタル兄さんやグリーンに勝つことはできた
残るは歴代最強とも言われているレッドだけ

「でも、今のレッドじゃ話にならない」

シロガネ山は野生のポケモンが強い。だが、人が滅多に立ち入らない場所
きっと、レッドは野生のポケモンとばかり戦ってきたのだろう。相手の隙を見逃していたり、おおざっぱな攻撃が多かった

野生のポケモンが本能で戦うバトルと、トレーナが指示をするポケモンバトルは全く違う

今のままなら、グリーンにも負けるだろう

「このバトルの続きは、リーグでやろう。カントー・ジョウト地方のチャンピオンの座をかけて、あたしはレッドと戦いたい」

「………」

「無理強いはしないよ。レッドが嫌なら挑戦しなくてもいい。もしやる気なら、ジムを制覇して、あたしのところに来て」

全力で相手をするから

答えは聞かず、焔の体温を感じながら、道なき道を歩いて帰った

















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