番外編
□世界の変化
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ポクポク、ポクポク
一定のリズムで叩かれている、茶色く丸い物体から出され音と共に、低い声が重ねられてから、どれくらいが経ったのだろうか
2、3回くらい、目の端で時計を見るが、長い針はさっきから同じ場所にいる
早く終わってほしい
慣れない座り方をしている為に痺れてきた足をそっと擦れば、ビリビリとした痛みが、上の方へと伝わった
「足が痛いなら、普通に座っていいよ」
いつもなら誰よりも早く自分の異変に気がつき、優しく対処してくれる声が、今日はない
目の前には、両親の大きな写真と、大きな白い箱が2つある
中身はわからない。見ようと思ったが、知らない女の人が、許してくれなかった
そういえば、この人達は誰だ?
ここは自分の家で、家には両親と自分の3人しかいないはずだが、いまは知らない人が沢山いるのだ
そして、皆が何かを話している
その会話で、必ず耳に入るのは、「遺産」「誰が面倒をみるか」の2つ
今だって、低い声に紛れて聞こえてきている
「いったい誰が面倒をみるのかしら」
「2人共、まだ若いから遺産は少ないのでしょう?なら、私は嫌よ」
「迷惑な話だ。どうせ死ぬのなら、子供も連れて行けばよかったものを」
後ろから沢山の視線を感じた
なんだか居心地が悪かったので、下を見て、黒いスカートをギュッと握ると、拳の輪郭線が歪む
驚いて瞬きをすれば、くっきりと見えた変わりに、頬を温かい何かがつたい、スカートにいくつかの染みがつくられた
「うちは無理だわ。今年は息子が受験なの」
「こっちは祖父母の看病があるから…」
「いっそ施設に預けてしまえばいい」
「まて。そうしたら遺産はどうなるんだ」
「ああ、もう。本当に迷惑な子供」
低い声が聞こえなくなっても、会話は続いていた
世界の変化
(それからのあたしは親戚中をたらい回しされ、9歳の時に、兄さんの両親に引き取られた)
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