番外編

□風の強い日
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「寒い」

「だろうな」

風が吹くたびに、あたしは結月をギュウゥと抱きしめた。人よりも高い体温が、今からの季節は嬉しい。結月からしたら、暖房変わりなんていい迷惑だろうが。

朝はいい天気だったんだ。暑いくらいの気温でったんだ。だから、薄いTシャツに、普段は履かないようなスカートを選んだのが悪かった。急に冷え込むなんて聞いていない。

「グリーン君。女性が寒い寒いと言っているんだから、その上着を渡しなさいよ」

「嫌だ。俺だって寒ぃんだよ。結月いるんだからいいだろ」

「そこら辺の女には貸す癖に、あたしには貸さないの!?何が違うの!?」

「か弱いか凶暴かの違いだな。主に」

「わかった。じゃあか弱いあたしに上着を貸して」

「男の鳩尾に平然と蹴りをいれる女が、か弱いわけねぇだろうが!全国のか弱い女に謝ってこい!」

「グリーン、うるさい」

「誰のせいだと……いや、遊んでないでさっさと探せよ」

ため息をついて、辺りをきょろきょろし始める。世の中の女子は、こんな優柔不断な男に魅力を感じているのか。憐れな。
内心で南無南無と手を合わせてから、同じく探しだす。

今日は休みだったから、久しぶりに、タマムシシティに買い物に来た。
完全にオフモードで行くために、おしゃれまでして雰囲気を変えた。精一杯楽しもうと思っていた。
それなのに、デパートに入ったら、見知らぬ母娘を連れていたグリーンに会い、巻き込まれた。娘のポケモンであるオタチがどこかへ行ってしまったらしい。

「デパート中探したんだが見つからなくてよ。ヤタナ、手伝ってくれよ」

嫌だよめんどくさい。
そう言いたいのは山々だが、市民の目がある場所では、渋々頷くしかない。母娘をデパートで待つよう言い、外に出た瞬間、結月の体当たりとあたしの蹴りが、グリーンの背中とおなかにヒットした。

そんなこんなで、あたし達はオタチを探している。あいにくと、お互いウインディを連れておらず(あたしの焔は分け合って兄さんに貸している)、探すのはだいぶ時間がかかっている。

「お、いたいた」

夕飯はグリーンのおごりだな、なんて考えながら歩いていると、グリーンが何やら嬉しそうに言った。
探していたオタチは、ベンチの下で丸まっていた。
見知らぬ土地で、主人と離れて、恐かったのだろう。ちいさな身体は小刻みに震えている。

ここで怖いオニイサンや知らない女が行っても更に怖がらせるだけだ。結月に頼み、オタチを下から出してもらう。
抱きかかえるのは無理そうだったので、結月の念力で浮かせて連れていく。

無事、母娘の元へ送り届け、時計をみると5時になっていた。ジトリとグリーンをみる。

「悪かったよ」

「あとでなんかおごってもらうから、覚悟してなよ」

有無を言わせず、頷かせる。
ボールからピジョットを出したグリーンは先に乗り、手を伸ばしてくる。結月を肩に乗せ、その手を掴んで、乗ろうとした瞬間だった。

「きゃ……」

急な強い風。少し遅れてスカートをおさえるが、遅かったらしい。
グリーンはあたしと反対の方向を見ていた。

「……見た?」

「……」

返事は無い。それはイコール見た、ということだ。

少し羞恥心を感じるが、とりあえず、ピジョットに乗る。飛び立ったピジョットの背中の上は、非常に気まずかった。





風の強い日 









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