番外編

□Is it not be just as wanted
1ページ/1ページ



ああ、イライラする。

このいい天気も、頬をかすめる風も、すれ違う人のあたしを見て出される短い悲鳴も、なにもかもがうっとおしい。

理由は明快。ワタル兄さんと喧嘩したからだ。
価値観の違いからくる意見のぶつかり合い。
些細な事で普段なら衝突するはずのない事だったのに、お互いに不満が溜まっていたのだろう。
双方一歩も引かずに、自分の意見を曲げない。ムキになった自分の声が、徐々に怒鳴り声になるのを感じていた。それなのに兄さんはいつもと変わらない声色で余裕を見せていたのが気に入らず、さらにヒートアップしていった。

最終的には、おろおろと見ていた結月とワタル兄さんのカイリューに八つ当たりする始末。それを咎めた兄さんの声を無視して、居心地の悪い家を出てきた。

冷静になって考えてみると、ただ近くにいたというだけで関係のない2匹に八つ当たりするなんて最低だ。
なぜあんな態度を取ってしまったのだろうか。あの時、なぜ冷静ではなかったのだろうか。
兄さんにあそこまで言う必要は無かったのに。

何度目かのため息をつく。
衝動的に家を出たので、財布もポケモンも何も持ってきていない。
足で行ける所なんか限られてる。
なんだかもう何もかもダメだな。

「ヤタナ」

俯きながら近くのベンチへ腰かけていると、名前を呼ばれた。のろのろと顔をあげれば、水色の髪の、どことなく服装が兄さんを感じさせる、フスベジムリーダー、イブキが立っていた。

「……イブキ姉」

「あんた、兄様と喧嘩したんですって?適当にあやすよう言われてきたけど、いつになく落ち込んでるわね」

「…あやすって、ガキじゃないんだから」

「なに言ってるの。喧嘩して家出なんて、まんま子供のする事じゃない。自覚ないの?」

あやすどころか傷口に塩塗りたくりやがったこの女。
再びこみあげてくる怒りを拳に向かわせる。ぎゅうっと握りしめると、ふっと微笑みを顔に浮かばせた。

「やっぱりヤタナはそうでなきゃね。落ち込んでるあんたは気持ち悪いわ」

「………」

ふっと体が軽くなった気がした。
そうか。この人、かっこつけてたりたまに抜けてる所があるけど、ワタル兄さんの従妹なんだよな。
恰好だけじゃない。こういうところも似ている。

「ほら、帰るわよ。兄様も謝りたいって言ってたから、あんたも謝りなさいよ」

「うん」

「随分素直ね。やめてくれない?気持ち悪いわ」

「あーそうですか」

「大体、兄様はあんたに甘すぎるのよ。生意気いう妹は、きっちりしめなきゃ」

「いまもの凄く兄さんの妹でよかったと思ってる」

「当たり前でしょう。何言ってるの」

きびきび歩きなさい。
そう言って早歩きで進んでいくイブキ姉の後をついていく。

両親があたしを引き取ることに、フスベの住民は良い顔をしなかった。
フスベでは結構な地位の両親が、どこの馬の骨かもわからない子供を養子にする。住民には、理解の出来ない事だったらしい。

家に怒鳴りこんできた人もいれば、あたしを追い出そうとした人もいた。
一歩外へ出れば、ドラゴンポケモンの攻撃が来た時もあった。村人はあたしを嫌っていたが、イブキ姉だけは違った。

そりゃあ第一声が「暗い顔してるわね。だから嫌がられてるのよ」とズバッと言われたから、印象は悪かったけど。
あたしと向き合ってくれた、唯一の人。

村の子供を説得したのも、姉さんだ。

「姉さんが…」

「ん?」

「姉さんが、村の人達に慕われる理由がさ、わかる気がする」

「な、なによいきなり」

顔を赤らめ、目線をそらすイブキ姉。
思わず笑うと、赤くしたまま睨まれてしまったが怖くは無い。

わざとらしい悲鳴をあげながら、姉さんから逃げるように家路を走る。

見慣れた家が見えてきた。
玄関では兄さんが、ドアに寄りかかりながら待っていた。
やがてこちらに気が付き、苦笑しながら軽く手を上げた。

とりあえず勢いよく抱き着く。
簡単に受け止めた兄さんに、心の底から笑顔を浮かべた







ただいま!








.  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ