今日の朝、いつもより一本だけ早い電車に乗って登校する。
町は息を潜めていて、いつも活気が溢れている商店街は、ゴーストタウンみたいに物静かで。
大人からしたら面白い、子供特有の話しで盛り上がる小学生の横一列に並んだ姿もない。
入れ代わりでホームに降り立つ人の数も少ない。
学校の最寄駅に着くと、既に彼女の姿がそこにあった。
改札口を出たところにある大きな柱に背中を預けて、不機嫌そうに携帯の画面を覗き込んでいる。
俺が彼女に声をかけるよりも先に彼女は俺の存在に気がついて、頬をぷくりと膨らませて
「なんでいきなり『一本早い電車にしよう』なんて言ったの?私が朝弱いの知ってるでしょ」
今日の第一声が、俺への抗議だった。
「そう言ってるけど、俺よりも到着するの早かったじゃん」
俺は彼女の抗議を軽く受け流して学校に向かって歩き始めた。
・・・―彼女の手を取って。
「な、」
彼女は顔を少し赤らめて、俺が彼女の言葉を無視した事を怒るよりも、まるで「急にどうしたの?」とでも言うように、驚いた顔で俺を見る。
「おまえさ、手を繋いで歩きたいとか言ってるけど、いつもの電車だと人が多すぎて手ぇ繋ぐの恥ずかしいだろ?」
「・・・そ、そんな事ないもん・・・」
「周りから陰口叩かれてるみたいにヒソヒソ話しされたら、おまえ気にするだろ?」
俺に図星を突かれて、彼女は少しだけ目を見開き、過ぎ行く道路に視線を泳がせている。
そこからしばしの沈黙が流れて、ローファーの靴底が地面と衝突する音だけが規則的に響いていた。
彼女が、意を決したように俺と繋いだ手に力を込めて―・・・
「・・・ね、ねえっ!」
「何?」
「明日も・・・この時間ね・・・?」
彼女の甘えた声に、俺はくすりと笑って答えた。
「・・・了解」
おわり