鉛色の疾風

□独眼鳥♯1
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―カリキュラで最も栄えている町、アーニュ。

激しく照りつける太陽の下で、それに負けないくらい明るい声の響く店が並んでいる。
子供…若者…大人…老人…男…女……町を行く人々は様々だ。
ある者は店を覗き、またある者は友と語らい、思い思いの時を過ごしながら町を歩いて行く。

その中に一人、どこか周りの者と違う空気を纏った人影がある。
頭から足元まで、全身を茶色い薄汚れたマントのような布で包んだその者は、ある一点へと足を進める。
ついた先は…パン屋。
かごの中や皿の上に、たくさんの色々な形をしたパンがつまれている。

…それは、一瞬の出来事だった。

―ガッ

マントの中から細い腕がパンへとのびたかと思うと、次の瞬間にはパンも腕もマントの中へと消えていた。
そのまま何事もなかったかのように歩き出す。
しかし、その店の店主はそれを見逃してはいなかった。

「ちょいとアンタ、パンの代金忘れてるよ。」

しかしマントは店主の声が聞こえなかったかのように歩き続ける。
店主のおやじもその態度が頭にきたらしく、グイッとマントの腕を掴むと頭をおおっていたフードのような部分を払った。
ハラリ、と布が脱げてマントの顔が覗く。
その瞬間、店主は短く「ひっ」と悲鳴を漏らすとその場にヘタヘタと座り込んでしまった。

マントの主は16、7歳くらいの少年だった。
しかし長い漆黒の髪の間から覗く左目から発せられる殺気は、大の大人をも怯えさせるほどのものだ。
そして反対の目…右目は、眉の辺りから頬まで続く長く深い切り傷によって塞がれている。

彼はもう一度店主を睨み付けると、フードをかぶり直しパンを食べながらゆっくりとその場を去っていった。

「…あーあ、オッサン新入り?アイツが来たらパンの一つくらい諦めないと、この町じゃやっていけねーよ。」

パン屋のとなりの果物屋の青年が、腰を抜かしたまま震えているパン屋の店主の肩にポンッと手を置きながら話しかける。

「アイツ…なんなんだ…?」

震える声をやっとのことで絞り出し、店主が青年に尋ねる。
青年は遠くを見て頭をポリポリと掻き、苦笑いしながら答えた。

「…本名は知らねぇけど、通称『独眼鳥』。なんつーか…この町で最も恐れられてるガキだよ。」

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