鉛色の疾風

□独眼鳥♯2
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独眼鳥と呼ばれた少年は、パンを食べながら暗い路地裏へ入る。
その路地裏こそが彼の家…つまり彼は孤児なのだ。

彼の名は鴉(からす)。
齢十七の少年である。
あの日…彼にとって最も大切な存在であった五歳年下の妹を失うまでは、彼も町を行く者達と同じように幸せに過ごしていた。
八年前に母を病気で亡くし、それから約一年後には大好きだった父を目の前で殺された。
親のいなくなった兄妹にとって、お互いが唯一の心のよりどころとなっていた。
しかし、五年前のあの日…。

…だめだ、やめろ、考えるな…。

頭を振って嫌な記憶を追い出そうとする。
その時、大通りの方からかわいらしい幼い女の子の声が聞こえてきた。
見るとそこには若い母親と手を繋いだ七歳くらいの少女がいた。

…アイツが奪われたのもたしか…アイツがあのくらいの年の頃だったな…。

その少女の姿は、いやがおうでも鴉の中に妹の姿を思い浮かばせる。
抵抗のしようがないことを悟った鴉は、パンを飲み込みあの日のことを思い返した。

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