鉛色の疾風
□独眼鳥♯3
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「兄ちゃま〜っ!一緒に買い物行きましょ〜っ!」
とたとたと鴉に駆け寄ってくる、七歳の妹。
鴉は笑って頷くと妹の手を握って一緒に町を歩いた。
賑やかな町。
二人は明るい声で笑いながら色々な店を覗く。
果物屋でリンゴを一つ買って、妹に渡した。
嬉しそうな満面の笑みで鴉にギュゥッと抱きつく。
そんなかわいい妹を、「これからもずっと守ってあげよう」と思いながら家路についた。
家まであと少しになったところで、急に雨が降ってきた。
鴉は自分の上着を脱いで妹にかぶせてやろうと、一度妹の手を離す。
その時だった。
「キャアッ!」
妹の悲鳴が響き、慌てて振り返る鴉。
そこには、二人の男に腕を捕まれた妹の姿があった。
「なんだお前らっ、妹から手を離せっ!」
しかし男達は何も言わず、口の端を上げてニヤッと笑う。
「何がおかしいっ!?早く離せよっ!」
鴉は鞄の中から父の形見のナイフを取り出そうする。その瞬間、路地裏からもう一人男が飛び出してきて、短剣を突きつけてきた。
それでも鴉は動じない。
叫びながらナイフで切りかかる。
が、男の方が幾分か早かった。
―ザクッ
「―…っ…!」
男の短剣は鴉の右目の辺りに当たり、頬まで続く深い切り傷をつくった。
激痛でその場に倒れこむ鴉。
その頭を男は踏みつけ、他の二人の男達に何か合図を送る。
痛みに歯を食い縛りながら鴉が傷ついていない左目を開くと、男達が妹を担いで走っていくのが見えた。
「兄ちゃまぁー…!」
男達の肩の上で泣き叫びながら離れていく妹。
「つぐ…みぃ……っ」
遠ざかる意識の中で妹の名前を叫び、そのまま気を失った…。