鉛色の疾風

□独眼鳥♯4
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「…はぁ。」

思い出すたびにやるせない気持ちになる。

あの日以来、一度も鶫(つぐみ)には会っていない。
どこにいるのか、何をしているのか、それどころか生きているのかすら分からない。
たとえ生きていたとしてもあれだけ手荒なことをした連中に捕まっているのだから、平和で幸せな生活を送っている確率は限りなくゼロに近いだろう。
もう一度鴉はため息をついた。

手に持っていた食べかけのパンを、無理矢理全部口に詰め込む。
普通の孤児ならせっかくやっとの思いをして手に入れた食べ物をそんな風に扱ったりはしないだろう。
しかし鴉は別だった。
食べ物を手にいれるのに、全く苦労をしないのだ。
なにしろ彼は独眼鳥…この町で最も周りから恐れられている存在なのだ。
いつもマントの中に隠してある父親の形見のナイフ、右目の大きな傷、睨まれた者はあまりの冷たさに凍りついてしまうような鋭い左目、そして全身から漂う溢れんばかりの殺気。
それこそが、鴉の恐れられる原因である。

鴉はまた昔を思い返した。
あの日のことを思い出すと必ず一緒によみがえってくる記憶がある。
これもまた幸せな記憶とは程遠い。
鴉が優しい兄から独眼鳥へと変わったきっかけとなった出来事…。

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