鉛色の疾風

□消失と出会い♯3
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「てめぇ…っ!」

怒りに思わずナイフをつかむ。
すると鳩は突然ケラケラと笑い出した。

「…なぁんてね、嘘だよ♪僕は何にもしてないよ。」
ペロッと舌を出す鳩。
鴉もそれを見て、自分がからかわれていたことに気がついた。
だがそれによって鴉の怒りはさらに増してしまった。
握っていたナイフを鳩めがけて投げつける。

―ビュッ

しかし、ナイフの飛んだ先に鳩の姿はない。
ナイフから何メートルか離れたところにいる。
当たらなかったのが悔しくて、持っていたナイフを次々投げる鴉。

―ビュビュビュッ

「あれ、噂とずいぶん違うね。みんなはこんなレベルのヤツを怖がってたのかぁ。」
「っ!?」

…なんで当たらねぇんだよ!?
投げてる方向は間違ってないよな…?

「鴉、投げるの得意じゃないでしょ?」
「!?」

鳩に言われて驚く。
確かに鴉はあまりナイフ投げは得意ではないが、それでも郵便屋相手に1つも当てられないような気はしない。

「んなわけねぇだろ…。」
「へぇ、苦手じゃないんだ?だったらなんで一個も当たらないんだろうね♪」
「るせえっ!」

怒りに任せてもう一度ナイフを投げる。

―ビュッ…カッ!

「!!」
「強がりばっか言ってさぁ、ほんとは苦手なんでしょ?」

鴉の投げたナイフは、なんと鳩の右手の人差し指と中指の間に挟まっている。
鳩がキャッチしたのだ。

「得意って言うならこんくらいのことできないと。」

鳩はナイフを指でくるくると回し、突然鴉めがけて投げてきた。

―ヒュッ

一瞬だった。
ハッとした鴉が自分のマントを見ると、右腕の辺りが切れている。

「僕さぁ、投げるの得意なんだよね♪」

「得意」を強調してニッと笑いながら言う。

「君のナイフが当たらなかった理由は三つ。まず単純に君がナイフ投げ下手だったから。二つめは僕が神速を謳われてるくらい足が速いのを君が知らなかったから。そして三つめは…僕が『風読み』だから、かな。」
「『風読み』…?」
「うん。ウォンリアって言うヤツ。風向きとか、風の様子を読めるんだよ。」
「てめぇがウォンリアなのとてめぇにナイフが当たらなかったの、なんの関係があんだよ?」
「だからさぁ、何で分かんないかな。僕が風向きを読んで、自分にとって追い風になる方向に立つ。鴉はもちろん僕に向かってナイフを投げる。でも風は僕の方に飛んでくるナイフにとって向かい風。だから勢いが落ちて避けやすくなるんだよ。」
「…っ。」

なんだかとてつもなく悔しい。
小さく舌打ちをした鴉を見て、鳩は嬉しそうに笑った。

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