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□雪
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生きていれば必ず何かを得て、何かを失う。


少年は、
まだ幼くて、心も体も完成されていない少年は、

彼の宿命ともいえる運命に翻弄されて
たくさんのモノを失った。


守りたいモノがあって、守らなければいけないモノもあった。


でもそれは、ことごとく彼の小さな手から零れ落ちて消えた。
少年は絶望し、悲しみ嘆く。

彼がなくしたモノは信じられないほど多く、大きい。

得たモノはあまりにも残酷だ。

心が壊れそうなほどの苦しみを背負った少年は、
それでも生き続けることを願った。












「きゃあ!」


白銀の世界
小さな悲鳴と共に、少女が倒れ込んだ。


「ラクス!ちょっ、大丈夫!?」


キラは前方でうつ伏せに倒れているラクスの元へ急いで歩いた。

本当は走って行きたいのだが、足首まで積もった雪が足を引っ張る。

やっとラクスの元へ辿り着いた時、すでに彼女は起き上がってコートについた雪を払う最中だった。

キラは溜め息をつく。


「慌てて走るからだよ?」


鮮やかな色の髪についた雪を一緒に払ってやる。


「だって…だってキラ!こんなに雪が積もってるんですよっ?」


鼻を真っ赤に染めたラクスが嬉しそうに笑う。

視界全部に広がる真っ白な世界。
触れれば、刺すような冷
たさの結晶。


「でもね、雪は逃げたりしないから。だから、もう走っちゃだめだよ。」


ラクスが歓ぶ姿を見るのは好きだけど、先程のように転倒されるのは困る。
キラは苦笑した。

ラクスは「はいはい」と無邪気に相槌を打つ。


「ねぇ、キラ。
雪ってとても白くて、本当に綺麗ですわね。」


はあ〜っと、白い息を吐きながらラクスはうっとりと呟いた。
寒さのせいか、彼女の頬がうっすら赤みを帯る。


「でも、…なんだか少し恐いです。」


キラは不思議に思って、雪を手に取ったラクスを見つめる。


「あまりに真っ白に全てを染めて、埋め尽してしまうんですもの。
…何も見えなくなってしまいそうです。」


微笑んでいるはずのラクスの表情が、寂しそうにキラの瞳に映る。


「全てを白く染めていく雪に隠されて、キラが見えなくなってしまいそう…。」


手の熱で溶け始めた雪が、ラクスのそれを濡らしていく。


「大丈夫だよ、ラクス」


冷たく濡れたその手を、キラは両手で包んだ。

はあ、と息をかけて温めようとする。


「大丈夫。
僕は白く染められたりなんかしない。例え、染められてラクスが僕を見えなくなっても、
こうして僕から君を抱き締めるよ?」


その言葉の通り、キラは
ラクスに覆い被さるように抱き締めた。

一瞬きょとんとしていたラクスも、微笑みながらキラを受け入れる。


「はい…っ!」











得たモノはあまりにも残酷で、
なくしたモノは信じられないほど大きすぎた。


悲しんで哀しんで傷付いた少年の心は
それでも生きていくことを願う。





何故なら、彼は
何よりもかけがえのない人を見つけることが出来たから。





ハラハラ舞い降る雪が、キラとラクスを白く染めていった…―。












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