長編
□晴れぬ穹、春くるは心。
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晴れぬ穹、春くるは心。(アスメイ)
…どうしてかな。
こんなに幸せで。
笑ってばかりいるのに。
…どうして欲張りになるのかな。
−…あたしが年下だから…?
…魅力、ないよね…。
*******
「…ただいま」
夜暗く静かな空気をこそり囁き破り、緩く開けられる玄関。
そこから音立てず姿を現わしたのは、深夜にはいささか似つかわしくない年若い青年。
蒼碧と紫紺色を有し染まる髪が肩を擦るまで彼の均整な顔を包み、似合い綺麗にさらりと流れる。
スーツ姿に身を包むその立ち振る舞いは一見年不相応だが、彼の大人びた表情でその表現は返り、魅合う。
随分と、夜は更けていた。
彼は音立てず鍵を閉める。しかし感じる気配に瞳を緩ませその先、待ち人に微笑む。
「…おかえりなさい」
彼を迎える、いつもの挨拶。
ほのかな明かりのある中、二人の姿が辺り暖かく浮かぶ。
「お疲れさまです」
そう彼女は紅紫色の柔らかな髪をふわり背に流して、童顔色白愛らしさを浮かべ彼同じく微笑む。
二人の微笑みは見暖かに玄関を包んで。
「…ああ…」
ありがとう。
…ちょっと、いいかな…?
「…?はい」
靴を直し廊下に上がりながら尋ねる彼に、解らずも笑み答える彼女。
「…少し」
すまない。
「…?…ぇ、…っ…!」
腕をそっと掴まれるままに引き寄せられ、抱き締められた小さな体。
「…っア、アスラン、さん…?」
…何か…あったんですか…?
抱き締められた嬉しさの前、突然の出来事に丸い瞳を大きく見開いたがすぐに心地好さから微笑みが戻る。
対し腕に包む彼は、瞳を閉じ温もりに酔うかのような表情で夜の静けさを壊さぬよう、息を吐くように囁く。
「…明日」
休みにしてきたから。
「…え…っ」
じゃあ…
「…ああ。」
行けることになったよ。
…どうする?
「…っ」
彼が尋ねているのは、つい三日前に決まった突然の外泊。
彼女、メイリンと子供たちが何気なく応募した懸賞の家族招待旅行。
転送先の手違いで急に届いたそれに、子供だけでは当然対象外となり同伴者が必要で。
家主が家を空けるわけにはいかず別館住まう彼女らに矛先立ち、仕事が忙しい彼−アスランの身を案じてメイリンは一人付き添いを決めていた。
…はずだったのだが。
「俺も…行こうかな。」
…聞いといて、行くつもりなんだけど。